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発達特性のある人に向けたIT業務体験プログラムの取り組みへの期待

2025年07月23日 山内杏里彩


 2025年6月4日、日本総合研究所が主催する「ニューロダイバーシティマネジメント研究会」の2025年度の活動が開始した(※1)。本研究会の今年度の活動では、発達障害のある人やその傾向のある人と企業が、特性を活かした就労機会創出に向けて共に取り組む予定だ。その活動の1つが「発達特性のある人を対象としたIT業務体験プログラムの試験提供」である。

 本活動では、高度・先端IT領域の業務に興味があり、発達特性のある学生を主な対象として、研究会参画企業各社が1週間程度の業務体験プログラムを提供する予定だ。各社から提供されるプログラムは、サイバーセキュリティ業務やデータ分析など様々である。本活動の特徴は、①障害者手帳や障害の診断の有無に関わらず参加可能な点、②エントリーシートや面接による選考を行わない点、③業務体験プログラム中の様子ではなく最終的な成果物によってその学生の能力発揮の状況を捉える点である。
 まず②の対比として、エントリーシートや面接を中心とする従来の選考プロセスの場合、発達特性の強い人はたとえ高い能力を持っていたとしても、コミュニケーション面などが原因で選考を通過できないケースが多かった。本活動では就労移行支援事業所の専門家の支援などにより、企業が出会うことが難しかった学生と出会い、その高い能力発揮の可能性を感じることができる。

 次に③の成果物については、発達特性のある人がその特性を活かした仕事に就くために、企業の理解が欠かせない部分である。従来の面接中心の就職活動では、発達特性の強い人は企業との対話を通じて自身の成果を見せる場に至ることが難しいケースも多く、特性を活かせる業務を見つけることが難しかった。企業側に、幅広い業務に対応できるジェネラリストを求める傾向が強く、たとえ特性を活かせる業務がわかっていたとしても、その業務のスペシャリストとしての採用やキャリアアップを目指すことは難しいことが多かったという事情もある。本活動の業務体験プログラムでは、企業が最終的な成果物によって相手を理解するような仕組みになっている。

 最後に①については、大学のキャリア支援を行う部署や障害のある学生を支援する部署の方にお話を伺った。多くの大学から、障害者手帳の有無や発達障害の診断の有無に関わらず参加できる点について、前例がなく非常に良い取り組みであると前向きなコメントをいただいた。
 大学への相談者の中には、手帳は取得したり診断を受けたりせずに就職に進みたいと考える学生もいるそうだ。また、自身の特性上の課題などにより学生生活や就職活動が上手くいかずに自信を失いかけている学生もいると伺った。本プログラムで検討するように、「障害者雇用」という枠組みの外であっても、自分の特性・得意を活かして働ける就労の形ができれば、そういった方の選択肢も増やすことができるだろう。
 本プログラムの実施を通じて、学生にはニューロダイバーシティ(※2)を前提とした採用を積極的に考えている企業があること、自分には魅力ある能力があふれていてそれを発揮するための場があることをぜひ知ってもらいたい。

 なお、今年度の活動は、発達特性のある学生と企業の双方にとって特性を活かせる業務や環境を見つけることを目指しており、採用を前提としたインターンシップではなく、職場体験という位置づけである。というのは、本研究会に参加してニューロダイバーシティを前提とした採用を検討しているような企業はまだまだ少ない。まずは、より多くの企業やそこで働く人たちが、能力発揮の可能性のある人と出会いその可能性を感じてもらえるように、互いの出会いの場や能力発揮のイメージを経験する場を増やせることに主眼をおいているためだ。とはいえ、大学からは採用に繋がるようなインターンシップへの期待の声も多い。本活動を通じて、今後の展開(例えば、インターンシップなど)についても検討を進めて参りたく、今後の本活動にもご期待いただきたい。

 本研究会への参画企業からの期待などは木村研究員の設立総会実施レポート(※3)もご参考いただきたい。

 ※本活動の詳細は、学生向けフライヤーおよび応募用特設サイトをご覧ください。


(※1) ニュースリリース ニューロダイバーシティマネジメント研究会が発達障がいのある人向けIT業務体験プログラムの試験提供や人材輩出エコシステムづくりなどを2025年度に開始
(※2)  脳・神経の発達特性を多様性と捉えて社会の中で活かし合おうという考え方
(※3)  ニューロダイバーシティマネジメント研究会2025 設立総会実施レポート


本コラムは「創発 Mail Magazine」で配信したものです。メルマガの登録はこちらから 創発 Mail Magazine

※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。

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