前回の企画編では、フランスのエシカル化による、4つのアパレル産業変革仮説(調査テーマ)について述べた。第二部の本稿では設計編として、これら4つの調査テーマに関する詳細な調査項目を設定した上で、各項目をどう調査し、明らかにしていくかの調査設計について解説したい。

●出所:日本総研
1.業界を変革するディスラプターは存在するのか
テスラが自動車業界を変革したように、アパレル業界のエシカル化が先行するフランスにおいてそのようなイノベーターがすでに存在するのか。仮に存在するとした場合、その企業は大企業なのか、スタートアップなのか。前者であればイノベーションのジレンマにはまっているのか否か、後者であればテスラのような高い企業価値がついているのか否か、といった仮説を立て、これらを検証することで得られる想定示唆を整理した。
テスラのようなディスラプターが存在し、その企業に高い企業価値がついているとすると、エシカル化によるアパレル産業のサステナブルファッション化は近い未来に到来する可能性が高いといえるが、そういった企業が存在しない、もしくは存在したとしても企業価値がついていない、とするならば変革の未来はまだ遠いといえるのではないか、といった視点を検証できるように設計した。

●出所:日本総研
2.アーリーアダプターとなるエシカル消費層は存在するか
テスラがイノベーター理論に基づき、EVを普及させていったことを鑑みると、アパレル業界のエシカル化が先行するフランスにおいて、エシカルファッションを率先して取り入れるようなイノベーター層やアーリーアダプター層が存在するのか否か、存在するとして一般的な消費者とは異なり、エシカル消費者特有の消費者行動プロセスをとっているのではないか、といった仮説を立て、これらを検証することで得られる想定示唆を整理した。
イノベーター理論に基づくと、テスラ同様、初期ユーザーであるイノベーター・アーリーアダプター層は富裕層であり、彼らがSNS等でオピニオンリーダーとして情報発信することでエシカルファッションを広めている可能性は高いが、仮に一般消費層まで普及していないとすると、そこにはキャズムが存在するのではないか。また、エシカル消費者特有の消費行動プロセスがあるのであれば、そのプロセスをカスタマージャーニーと捉えなおしたマーケティング施策が講じられているのではないか、といった視点を検証できるように設計した。

●出所:日本総研
3. 政府による規制緩和等の後押しが存在するか
EV普及の背景に米国政府の政策の後押しがあったように、アパレル業界のエシカル化が先行するフランスにおいても政策の後押しがあるのではないか。事前調査においても、「衣服廃棄禁止令」の施行や衣類専用の回収ボックスの設置等、エシカル化に向けた政策がすでに存在していることがわかっているが、それら政策が十分か否か、十分でないとすると今後どのような政策が計画化されているか、といった仮説を立て、これらを検証することで得られる想定示唆を整理した。
アパレル業界をエシカル化によって変革していくにあたり、必要な政策が見えているのであればあとは施行していくだけであるが、そもそもどのような政策が必要か、必要な政策が見えていない場合、どのような課題があって政策立案できていないのか。また、米国トランプによる影響がどこまであるのか、といった視点を検証できるように設計した。

●出所:日本総研
4. 業界変革を後押しする技術は存在するのか
テスラが技術革新により「バッテリーの持続性」等のペインポイントをつぶし、EVを普及させたのと同様に、アパレル業界のエシカル化が先行するフランスにおいてもアパレル業界のエシカル化を後押しするような革新的な技術が存在するのではないか。仮に、そのような技術が存在するとして、すでに商用化できるくらい確立した技術になっているか否か、確立できていない場合、そのような技術の確立の目途は立っているのか否か、といった仮説を立て、これらを検証することで得られる想定示唆を整理した。
EVの場合にはガソリン自動車として比較して温室効果ガスを出さないこと、ガソリン自動車と同等の航続距離を実現すること、といったことが開発課題であったと推察するが、アパレルにおいてはいわゆる素材の開発だけでなく、大量に作らない・大量に捨てないエコシステム自体が必要ではないか、といった視点を検証できるように設計した。

●出所:日本総研
このように、テスラの事例に基づくフランスにおけるエシカル化によるアパレル産業変革仮説の4つのテーマについて調査項目を詳細に定め、調査によって示唆が得られるような構造を設計した。第三部の実査編では、フランスでの現地調査の結果を踏まえ、これら仮説の検証結果について解説したい。
以上
※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。