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【農業】
農業水利施設のDX

2020年06月09日 今泉翔一朗


 地方暮らしに関心を持つ人が増えている。政府が、東京圏在住の1万人を対象に実施した調査(2020年1月30日~2月3日)によると、49.8%が東京圏以外の地方で暮らすことに関心を持っていることが分かった。さらに、新型コロナウィルス感染症を受けて、今後、都市化だけでなく、地方暮らしの流れも一層注目されるだろう。

 一方で、地方暮らしを考えるとき、不安として思い浮かぶものの1つが、インフラの老朽化である。耐用年数を迎えたインフラの再整備・更新の必要性は待ったなしだが、人口減少とそれに伴う税収減の中で、どう対応していくのかは全地域に突き付けられた課題である。
 インフラには、上下水道や道路、送電網等様々なものがあるが、地方には、都市部にはない重要なインフラがある。それが農業水利施設である。農業水利施設とは、農業を行う上で必須となる水を川等から引いてくる農業用水や、洪水による農業被害を防ぐためのダム、用排水路等のことである。農業水利施設は、農業という産業のインフラであるばかりでなく、私たちが里山と聞いてイメージする美しい田園風景の礎となる社会インフラでもある。

 農業水利施設にも、施設の老朽化、維持管理の人員減少、その両方に関わる予算減少の課題がある。基幹的な農業水利施設は、多くが戦後から高度成長期にかけて整備されてきた。標準的な耐用年数を超過した施設が平成に入り急増するとともに、突発事故の件数も増加しているという。また、農業水利施設の維持管理の仕組みは、施設の規模によって異なるが、農業用水等は市町村や農業生産者の組合である土地改良区などが管理することとなっている。多くの地域で農業生産者の減少に伴い、維持管理の予算が減少している。

 少人数かつ低予算という制約の中で、施設の老朽化に対応し、維持管理の仕組みを再構築するには、IoTやロボット等を活用したデジタル・トランスフォーメーション(DX)を取り入れるべきだろう。

 維持管理の業務を大きく分類すれば、点検・診断・計画策定・対策工事の流れで構成される。これらの業務を、技術動向と照らし合わせて、ステップバイステップで、効率化・省力化・自動化していくことが重要である。たとえば、点検業務の自動化であれば、安価な水位センサーが存在するので、複数地点の水位を常時監視し、しきい値から外れた場合、アラートを通知するといったことが考えられる。また、診断業務の自動化であれば、工場設備で導入されているように、振動センサーをポンプ等の設備に取り付けて、故障予知を行うこともできるだろう。また、計画策定では、各所に設置したセンサーで取得したデータを用いて、優先対策を施すべき設備の特定を行うことも考えられる。

 DX化進めるにあたっての課題の1つは、機器の導入費用だろう。たとえば、農業用水流域の広いエリアを対象にセンサーを設置するとなれば費用もかかる。
 そこで、農業水利施設のDXに、スマート農業を掛け合わせてはどうか。たとえば、各所に設置した水位センサーは、設備の監視だけでなく、地域全体として最適な水の分配を行う等、農業生産自体にも活用できるデータとなる。逆に、スマート農業で普及が進むドローンを、農地だけでなく、農業水利施設のモニタリングに活用できないか。このようにして、農業生産とインフラ維持管理の両方にメリットを創出することで、費用対効果を高めることが考えられる。

 日本総研は、スマート農業を超えた、農村地域全体のDX化を目指す、「農村DX」を提唱している。農業水利施設という農業だけでなく、地域の景観にもかかわる社会インフラの維持管理にあたっても、農村DXの観点は重要になる。

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※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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