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【次世代農業】
次世代農業の“芽” 第2回 多機能ロボットに対するアグリテックプレーヤーの反応

2017年07月11日 清水久美子


 去る5月23日から25日の3日間、日本経済新聞社が主催する「Agritech Summit」に参加しました。当社はメインスポンサーを務めた三井住友フィナンシャルグループの一員として、パネルディスカッションへの参加、ブース出展を行いました。ブースでは、昨年10月に出版した書籍「IoTが拓く次世代農業 アグリカルチャー4.0の時代」でコンセプト提言を行った、自律多機能型の農業ロボット「DONKEY」について紹介しつつ、各国のアグリテックプレーヤーとディスカッションを行いました。今回は、ディスカッションの内容を紹介したいと思います。

 まず「DONKEY」について、ここでも簡単に紹介したいと思います。「DONKEY」が目指すのは、日本の農業特有の課題の解決です。(1)1経営体あたりの耕作面積が小さく、機械化によるメリットが享受しにくい。(2)管理する圃場が点在しており、収益拡大のために農地を増やすほど、移動コストが拡大する。その結果、手間がかからない=付加価値の低い作物へ転換してしまう。(3)農家の圃場での作業時間が長く、営業やマーケティングにかけられる時間が少ない。こうした課題の解決を目指し、「DONKEY」の主要コンセプトは次の3点としました。(1)本体は、移動・駆動・通信制御といった中核機能をモジュール化。アタッチメントを変えることで多数の品目や機能に対応できるものにし、年間稼働率を上げる。(2)移動の運用性を高めるため、小型(軽量)にし、複数台所有していても、軽トラック等に積んで持ち運びもできるようにする。(3)ロボットが自律して作業する。

 シンポジウムで「DONKEY」のコンセプト紹介をしていたこともあり、出展ブースにお越しいただいた方とのディスカッションの多くは、農業ロボットに関するものでした。最も関心が高かったのは、展開拡大に向けたコストダウンについてです。

 農業ロボットのコスト削減は、1台で対応できる作付品目や機能を増やすことにあります。作付品目が増えれば多くの農家が導入可能となって量産化が図りやすくなり、また、多機能であることによって1つの作業にかかる機械コストを低減できます。前者の代表はドローンでしょう。高度なモニタリングによる農薬・肥料のスポット散布・散布量削減の実績も出てきていますが、次のステップとして、より多くの作付品目に対応するために、ペイロードの上限を上げる、スポット散布に適した農薬を開発することが技術課題とされているようです。後者については、研究段階のものが多く、商用化の検討はこれからです。「DONKEY」は前述した通り、どちらの方向性も視野にいれて検討しています。

 イベントでは、海外のアグリテックプレーヤーとのディスカッションの機会もたくさんありました。当初、「DONKEY」のような多機能ロボットに関心を持つのは、日本と同じく点在した小規模圃場を管理する、東南アジアのプレーヤーだと推測していましたが、意外にも反応が大きかったのは、機械化・効率化がすでに進んでいる欧米のプレーヤーでした。彼らからは、次のような意見を多くいただきました。「大型圃場においても、単目的ではコストが合わないため、機械化の対象とされていない作業もたくさんある。大型機械でできない作業をフォローする、小回りの利く多機能のロボットのニーズがある」。すでに確立している技術を、運用上の利便性から小型化・多機能化するのとは異なるニーズです。

 このようなロボットを開発するのに必要となる基礎的な技術については、知財が確立されているものもたくさんあります。本体に中核機能をモジュール化することを想定する「DONKEY」では、アタッチメントさえあれば、機械化対象となり得る技術も積極的に取り込んで行く予定です。「DONKEY」のアタッチメント開発には、技術を持っているメーカーにリードしていただきながら、オープンイノベーションで展開していきたいと考えています。

この連載のバックナンバーはこちらよりご覧いただけます。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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