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考えの可視化で進める進路選択 ~ツール活用による思考整理と対話促進~

2025年03月01日 山本尚毅


大谷翔平の選択を支えた資料
 54本塁打59盗塁、二冠王、ワールドシリーズ制覇、昨年、我々が目の当たりにしたこの奇跡は、一つの資料がなければ、起こり得なかったかもしれない。
 ドラフト会議前に、メジャーリーグに行くと宣言したにもかかわらず、日本ハム・ファイターズ(以下「ファイターズ」)が指名、大谷選手は当初の意思を翻意し、ファイターズ入団を選択した。そして、プレイヤーとしてもう一つの方向転換をした。投手に専念するのではなく、二刀流への挑戦である。この意思決定の変遷には、ファイターズが交渉過程で大谷選手と家族に提示した、「大谷翔平君 夢への道しるべ」という資料が大きく影響したと考えられる。
 MLB志向の大谷選手に対し、この資料には、「①MLBトップの実力をつけたい」「②トップで長く活躍したい」「③パイオニアになりたい」という3つの判断基準が挙げられ、それぞれNPBから挑戦する場合と最初からMLBに渡る場合の分析結果が多くの角度から詳細に示されている。
 ただし、このうち「③パイオニアになりたい」については、NPBから挑戦する場合の説明が記されていない。報道によれば、二刀流での育成プランが提示されたのは、最後の入団交渉であったという。この資料には①②におけるNPBから挑戦する場合の優位性については説得力のある説明が記されており、大谷選手本人の思考を冷静に整理する地ならしになったはずである。そして、監督と球団から直接提示されたであろう、NPBで始める「二刀流」という新たなオプションが、「③パイオニアになりたい」という大谷選手の判断基準を見事に射抜いたものと筆者は考える。

進路選択時、高校生が自ら考え、他者と対話するツール
 大谷選手と同様、どの高校生も卒業後の進路選択を行う必要に迫られ、就職するのか進学するのか、それはどのような仕事や学びなのかを決断している。大谷選手の場合、ファイターズが思考プロセスを整理し、判断材料を集める役割を果たしていた。しかし、高校生一人ひとりに周囲が手厚く寄り添うことは難しい。また、大谷選手のように将来の夢、そのための道筋が明確になっていることは稀である。
 しかし、将来は定まっていなくても、自身の思考を整理し、過不足を把握することはできる。ただし、高校生が自分の力でファイターズの資料のようなものを作成することは難しい。そこで、多くの進学関連の事業者から、進路選択に役立つツールが開発されている。
 例えば、大手予備校の河合塾の学習プログラム「ミライの選択」(2022年 グッドデザイン賞受賞)では、将来の選択肢と判断基準をそれぞれ3~4つ並べたマトリックス表を使って、納得感のある進路選択を支援する。例えば、大学受験の場合、横に工学部、農学部、薬学部などの学部を、そして縦には、手に職が就くか、学びたい教授がいるかなどの判断基準を並べ、それぞれを五段階の数値で評価する。ぼんやりした悩みを表にまとめることによって、目に見える複数の選択肢に変わる。
 表によって考えが可視化されることで、他者からの助言が得やすくなるという効果も生まれる。保護者や教員とのコミュニケーションが建設的になり、新たな選択肢や判断基準の発見につながりやすくなるのである。

キャリア自律の実現にも欠かせない
 高校生だけでなく、社会人もそれぞれの局面に適応し、自分の価値観や判断基準を見つめ直し、キャリアを選択することが求められ続けられるようになった。労働市場の変化が速さを増す中、働き方のトレンドも急速に移り変わり、選択した道が突如なくなることさえ少なくないからである。大企業などで推進されるキャリア自律もその対応の一つである。
 従来のキャリア論では、組織で活かせる専門性やスキルが重視され、企業がキャリア形成を下書きしていた。一方で、キャリア自律では個人が組織に依存せずに自分の成長とキャリアを主体性に考えることになる。
 キャリア自律の実現には、先ほどのミライの選択でのマトリックス表のようなものを作成することが非常に有用となる。自分の考えを整理し、そして所属する企業など第三者とのコミュニケーションを図るツールとして積極的に活用しながら、キャリアを形成していくべきと考える。


※記事は執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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