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日本総研ニュースレター 2018年1月号

減反廃止を地域の農業活性化のチャンスに

2018年01月04日 三輪泰史


2018年はコメ政策の大きな転換期
 この数年、農産物の輸出促進、農業参入等の規制緩和、JA改革といった施策が次々と進められ、日本の農業政策は大きく変わってきている。2018年に特に注目されるのが、コメの減反(生産調整)政策の見直しである。
 農業の成長産業化および地方創生という政策を鑑みれば、既にコメの減反政策は存在意義が薄れている。過去を振り返ると、減反政策は日本の重要な主食であるコメの安定供給に大いに貢献してきた。しかし主食の多様化を受け、日本の消費者の一人当たりのコメ消費量はかつての半分以下にまで低下した。また、コメ農家の数も大きく減少した。このように縮小するコメ市場において、さらに生産調整で個々の農業者の生産量を制限するのは農家所得の縮小均衡となるだけでナンセンスである。
 従来の減反政策および売上重視の経営戦略の下では、必然的に多くの農業者が単価の高い品種の栽培に注力してしまう。「売上=生産量×単価」という計算式に則って農業経営を行う場合、減反政策によって「固定値」となる生産量については特に検討せず、単価が高い品種の栽培に集中することで売上を高めるのが定石となるからである。
 その弊害が、現在問題となっている業務用米の品不足である。減反によってブランド品種栽培への偏重が一層進んだため、2017年のコメの作況指数は「平年並み」の100であったにもかかわらず、需要の多い業務用米の供給が足りなくなる事態に陥っている。結果として、大手外食チェーンの値上げや、コンビニエンスストアのおにぎりの小型化(実質値上げ)といった問題が顕在化している。

減反見直しが生み出す新たなビジネスチャンス
 一方、農業を営む主体に関しては、小規模な家族経営から、農業法人や農業参入企業による法人経営へのシフトが進んでいる。稲作を営む法人では、数百ヘクタールもの広大な農地を扱うことも珍しくない。これらの農業者は、「ビジネスとして農業を営む」主体であり、地域の農業を支える「スター農家」と言えよう。
 最近、このようなスター農家などの間では、一つの経営体で複数品種のコメを栽培するモデルがトレンドとなっている。コシヒカリ等のブランド品種に加え、単価の劣る業務用米、加工用米、飼料用米も組み合わせて栽培するのである。
 このモデルのビジネス面での特徴は、「売上の最大化」ではなく、「利益の最大化」を図る点である。稲作では田植えや稲刈りといった特定のタイミングに労働負荷と農機の稼動が集中することが課題であるが、栽培時期が異なる複数品種を組み合わせると、作業のピークの平準化が図れる。これにより、単一品種栽培の場合よりもはるかに広い面積を1台の農機で取り扱えるため、コメ一粒あたりの農機コストが劇的に低下し、農業者一人当たりの栽培面積も大きく向上する。つまり売上を多少削っても、それ以上にコストが削減され、結果として利益が増加するのである。減反制度が見直されると生産量の制約が外れるため、単価至上主義から利益重視型の営農モデルへのシフトが加速するだろう。

農業全体を捉えた効果的な補助金政策
 利益率を重視した多品種栽培モデルでは、飼料用米や加工用米も重要な品種である。しかし、そうした非主食用米への転作補助金が将来的に削減、廃止されるのではないかという農業者の不安が高まっている。実際、飼料用米の栽培では、農業者の収入の約9割を補助金が占めるという批判的な意見も聞かれるが、私個人としては転作補助金は恒久的に続けるべきと考える。なぜなら非主食用米への転作補助金の受益者は稲作農家だけではないからである。
 近年、香川のオリーブ牛、大分のかぼすブリのように、地元の特産品で育てた畜産物・水産物が人気を博しているが、飼料米でも同様に、地元産のコメを食べて育った豚肉、鶏肉、鶏卵という新たな特産品を創出することは可能である。
 さらには、それらを原材料としたハム・ソーセージ、菓子等の加工食品が製造され、地域の外食店では地元の恵みに富んだメニューが生まれる。このように非主食用米への転作補助金は単なる稲作農家の所得補填ではなく、地域経済と地域の食を支える波及効果がある。このような地方創生の切り札が制度変更で吹き消されることがないよう、非主食用米への転作補助金が地域にもたらす「真の意義」を積極的に伝えることが重要である。

※執筆者の個人的見解であり、日本総研の公式見解を示すものではありません。
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