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正頭先生監修金融教育プログラムが伝えたいこと

2022年11月17日 時吉康範

 正頭先生が監修した、主に高校生向けを想定したSMBCコンシューマーファイナンスのアクティブラーニング型金融教育の5つのプログラム(※1)「導入編」、「育てる」、「稼ぐ」、「借りる」、「貯める」のうち、人気がある「死ぬまでにやりたい3つのこと(プログラムの導入編)」、「お金を育てる投資という選択肢」、「違いを価値に。稼ぐ方法を考える」の3つのプログラムの授業概要を紹介する。
 授業概要をより理解してもらうために、それらのプログラムをどのようなお考えで作られたのか、正頭先生にお聞きした。授業概要と合わせてインタビューを見ていただきたい。

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①死ぬまでにやりたい3つのこと(プログラムの導入編) [授業概要]

出典:SMBCコンシューマーファイナンス「お金の授業 死ぬまでにやりたい3つのこと」資料表紙より転載


日本総研:生徒の幸福(やりたいこと、ありたいこと)からお金を考える、高校生に「死ぬまで」という長い時間軸で考える設定は面白いですね。

正頭先生:「お金は目的ではなくて道具だよ」が裏テーマにあります。この授業を受けた後に子どもたちには、「お金と夢とどっちが大事?」との質問がいかにばかげているかということに気が付いてほしかった。「夢をかなえるために、お金が必要」と考えてほしい。そう考えた時に、「死ぬまでにやりたい3つのこと」というテーマであれば、おそらく子どもたちの中に「お金を貯めたい」という発想は出てこないはずだと。「お金を貯めて死んでもしょうがない」と思うはずだと。「何がやりたいだろう」が先に来て、「それをやるために必要なお金はいくらか?」と計算させると、「あ、お金を貯めることがゴールではないのだな」という気づきに持っていけるだろうなと。

日本総研:「お金は汚いものではないよ」と、以前おっしゃっていましたね。

正頭先生:全てのプログラムにその考えを反映していますが、それを色濃く出したのが「死ぬまでにやりたい3つのこと」です。授業としてはどのプログラムからやっていただいても結構ですが、「死ぬまでにやりたい3つのこと」のアウトプットは「お金のことをちゃんと勉強した方がいいよね」なので、最初はここから入って「他にもこんな授業があるからなんかやってみようか」となるのが理想です。子どもは「お金は汚い」なんて思ってない。むしろ、学校の先生の方が思っているのではないかな。

日本総研:この授業のゴールイメージは何でしょうか?

正頭先生:「調べてみたい」という気持ちを引き出すことですね。大阪のある高校で授業をやったら、梅田に大きい本屋があるのですが、「あの大きい本屋さんに住みたい」という意見が出ました。本が好きな生徒がいて、「一面、本に囲まれた本屋さんに住みたい、ここで暮らしたい」と。友達との休み時間の会話だったら「私、あの本屋に住んでみたいなと思う、へへ」で終わりますが、「じゃあ、それはいくらかかるかな?」と聞いた瞬間に「確かに考えたことなかった」「調べてみたい」となって調べてみる。土地代から調べ、マンションのワンフロアのレンタル費用を調べ、「月450万円か」と。子どもたちは笑って「意外と高いな」と。
友達同士でやるので、「お前、そんなのやってみたかったの?」、とか、「そんなのに興味あるとは知らなかった」とお互いに新しい一面が見えたりして、友達間でアイスブレイクみたいなことが出てきたのは、予想外の効果で、面白かったですね。

日本総研:この授業が導入編なのですね?

正頭先生:どの授業からやっていただいても結構なのですが、許すならば、この「死ぬまでにやりたい3つのこと」がスタートラインだと思っています。この授業のアウトプットは「みんなお金のことをちゃんと勉強した方がいいよね」という気づきなので、「他にも、こんな授業があるからなんかやってみようか」っていう流れになればよいと思います。この授業があって、具体例として他の授業があるという感じです。

②お金を育てる投資という選択肢 [授業概要]

出典:SMBCコンシューマーファイナンス「お金の授業 お金を育てる投資という選択肢」資料表紙より転載


日本総研:「ギャンブルとの違い」を問いかけたのはどういう意図でしょうか。

正頭先生:高校生にヒアリングをした時に、投資に対してどのようなイメージを持っているかと聞くと、「ギャンブル」と答える子が結構いたのです。なんとなく、投資イコールギャンブル、怖いもの、丁半ばくちのようなイメージを持っている高校生が多いと思ったので、「そうではないのだよ」ということを、まず伝えておこうという意図です。経済の流れの中で理由があって起こっていることだと理解すると、世界の事を勉強することの意味もわかるだろうし、それがビジネスにおいても色々役立つこともあるだろうし。
「投資しなさい」ということではありません。そういう選択肢があるということを知ってもらえればよくて、やってもいいし、やらなくてもいい。今回の「借りる」のプログラムでも、借金することは別に悪いことではないということを伝えたかった。ただ、同時に、借金することが正しいということでもない。伝えたいのは、「白でも黒でもなく、正しい使い方をすればあなたたちの武器になるよ、選択肢なのだよ」ということです。ただ、不特定多数の生徒たちにこの授業が届くことを考えると、「借りる」の授業は結構デリケートに作ったというところはあります。借金で苦労している生徒さんもいるだろう、ということを考えると。

日本総研:株式を取り上げた授業を生徒は理解できるでしょうか?

正頭先生:45分とか50分の授業では難しいですね。SMBCコンシューマーファイナンス(以下、CF)が以前から使っていた(株式に関する)教材は、読み物として読んだら面白いし、僕みたいな興味のある人間が読むとすごく楽しい資料なのですが、CFさんに聞くと「生徒はこの資料をあんまり読んでくれない。この資料をなぞるだけの授業では子どもに興味を持ってもらえない」ということでした。
今回のプログラムでは、この授業が終わった後に生徒に資料を渡して、その資料を読んで「もっと知識深めたいな」とか、ちょっとモヤモヤした消化不良が残るぐらいで終わるくらいがベストかなと考えています。授業の中で「試してみたい」を入れつつ、そのアウトプットとしては、できるだけ「調べてみたい」と思えるように設計しているつもりです。

③違いを価値に。稼ぐ方法を考える [授業概要]

出典:SMBCコンシューマーファイナンス「お金の授業 違いを価値に。稼ぐ方法を考える」資料表紙より転載


日本総研:このプログラムは、生徒の「何をしてみたい」という欲求を高めるものですか?

正頭先生:これはCFさんになかった全く新しいプログラムで、「試してみたい」を重視しています。100円のミネラルウォーターを500円で売るために自分だったらこうするかな、というようなアイデアを出すものです。ミネラルウォーターは普段なら100円だけど、富士山で買うと200円。人が運んだ人件費がかかるからではなくて、特別な場所で売っている希少性が200円にしている。他のモノでもそういうアイデアを文化祭などで試してみることができればいいな、と。

日本総研:「アイデア」を出すということですね?

正頭先生:子どもたちは、アイデアを考えるところが1番楽しいはずなのです。「そんなのありだな」とか「面白い」と。アイデアを出していくところは時間があったらもっと踏み込みたかったところです。
先日、近所の大学の文化祭を訪れました。1回100円の輪投げをやっていて、輪が何個入ろうとお菓子セットをもらえる。10円のお菓子が7個ぐらい入っている。問屋から卸してないだろうから、たぶん70円で買っていて、30円の利益しか生まない。「もうちょっとやり方を考えたらどうなのだろうか」と思いました。70円のお菓子をどうやったら300円で売れるのか、ということを考えさせれば、輪投げという発想ではなく、ゲーム自体をもうちょっと魅力的にするとかアイデアが出るのではないかな。若いうちにこのような授業受けているとその発想はできたはずだと思います。「こんなアプローチは?あんなアプローチは?」と考えられる。(大学の)あの子たちがそのまま社会に出てもうまく稼げないだろうな、つまり、価値を見出せないだろうなと思うことはありますね。

日本総研:価値とは何でしょうね?

正頭先生:基本、お金は「ありがとう」の対価ですよね。「ありがとう」を可視化した価値がお金だと思っています。成長している会社は、たくさんの「ありがとう」をもらっている。

日本総研:「人との違いをポジティブに認識しよう」とはどのような意図でしょうか?

正頭先生:「個性を大事に」と言われていますが、個性を大事にする教育は実はあまりないと思います。僕の感覚では、唯一個性を大事にしているのは入社試験だけです。入社試験だけは人と違うことを求められている気がしますね。だけど、入社後は人と同じことを求められているのです。入社試験の時に「自分は他の人と違ってこんなこと頑張ってきました」みたいなことを言って人と違うことをアピールするのですが、それで採用されても入社すると人と同じことを求められる。一方、入社試験の前の、高校入試、大学入試では、同じレール上で速い/遅いを決められていて、違うトラックを走っている子はすでに不合格なのです。同じトラックを走っている中で、誰が速いか、優れているかの競争なのです。
でも、実際の世の中では、「優れている人でなくて、異なっている人が価値を提供している時代」になってきている。優れているレースになると、AIが1番優れているから。人と違うことができる人に希少価値が出てくる。これは多分時代を超えても同じではないかなと。「人と違うことは社会的に価値を生むのだよ」「人と違うことはいいことだよ」「人と違う部分をどんどん探していこうよ」と。違いを探すには、いわゆる『ジョハリの窓』ですが、自分が知らないし、他人も知らない部分のことを可能性と呼んで、この可能性を広げるには勉強するしかない。ただ、現役の高校生は基本的に人と違うことは嫌なので同じことをしたがる、同調圧力みたいな・・・。その概念を壊して、人との違いを認識するような、何かしらの工夫を試みたということです。

日本総研:企業は差別化を盛んに求めるのに、差別化の教育はされないですものね。

正頭先生:いじめのリスクがめちゃくちゃあるので、よっぽど力量のある先生でないと無理ですし、力量のある先生が同じ生徒を卒業まで教えてくれるならいいのですが、担任が変わって、次の担任の先生が全然違う発想だと、「去年までの先生はこんなに僕のことを認めてくれたのに、今年は認めてくれない」と、子どもたちが困惑してしまう懸念があります。

日本総研:起業にも同じ問題があてはまりそうですね。

正頭先生:起業する人は日本全体の3パーセントと言われていますが、その3パーセントの人たちのほとんどは学校教育が合わなかったりとか、会社の風土が合わなかったりとか、何かしらのフラストレーションから始めることが多いらしいです。

☆☆☆


 インタビューを終え、正頭先生の考えは以下のように整理できると思った。
・お金は、汚いものではない。偏見を持たずに、きちんと知り、人と話してみる。
・お金は、目的ではなく手段。やりたいことを実現するための(大切な)道具。
・お金は、「ありがとう」の対価。「人との違い」を大事に。

 これらから浮かび上がるメッセージは、「大人は自身のバイアスをかけることなく、世の中で起きている事実やその構造を子どもたちにきちんと示す」、「事実や構造を正面から(淡々と)捉え、自ら考える子どもたちを育成する。そして、調べてみたい、試してみたいと思った子どもたちはそれに応えることができる」ということだろう。

 お金は、生活していれば頻繁に考えさせられる問題だ。(自分や自社の、他者・他社との)差別化は、お金の話よりも頻度は少ないものの、仕事をしようとすれば(企業で仕事をしていれば)考えさせられる機会が多い課題だ。これらは、良い/悪い、きれい/汚いとの話ではなく現実である。よって、子どもたちがバイアスを持たないうちに(教える側は子どもたちにバイアスがかからないように留意して)、子どもたちが社会に出た後に直面する、ごく普通の問題・課題の事実やその構造を、子どもたちがごく自然に体験し、感じ、考えてみる習慣を習得することが、子どもたちが生きる力を身に着けることにつながると思う。

(※1) SMBCコンシューマーファイナンス株式会社 ニュースリリース(2022年4月4日)「正頭英和氏の協力のもと「お金を学び、未来を自ら考え、動き出す」プログラムを制作 (2022年11月10日参照)
「きょういく」を探求し、創造する先生の学校ウェブサイト「高校の金融教育、どうしていますか?世界トップティーチャー監修の「お金の授業」、無償で出前します! [PR] (2022年11月8日参照)
以上
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