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ゼロからの研究開発戦略

第1回 「研究開発の効率性について」

2003年11月19日 浅川秀之

(1)研究開発の効率性とは

 一般的な製造業企業におけるビジネスサイクルとして、研究開発による新規技術の発見が起点となり、製品化プロセスを経て、生産のための設備投資、広告・宣伝、販売に至り、最終的に売り上げや利益に結びついていく、といった一連の流れが想定される。この一連のサイクルの中において、最終的に得られた利益がさらに次のステージの研究開発に投入され、新たに新規技術が創出される、という具合にビジネスサイクルがポジティブに回っていくような場合、効率のよい研究開発がなされていると推測できる。

(2)日本の研究開発は効率的なのか?

 近年、これまで製造業を中核としてきた企業でもソリューション、サービスシフト化という傾向にある。しかしながら、日本の製造業企業にとって自社における研究開発は将来のキャッシュフローを生み出す原点である、という考え方が依然根強く残っている。このように研究開発そのものに重点を置く日本の製造業企業において、はたして効率的な研究開発が遂行されているのであろうか。さらに直接的な言い方をすると、研究開発が売り上げや利益に効率よく連鎖しているのであろうか。

 多くのデータが示すように1990年代以降日本における研究開発費の投入は一貫して増加傾向にある。しかしながら、日本の各製造業企業の中において、自社の一連のビジネスサイクルの中で、研究開発の効率性について十分に調査し、これを次期研究開発戦略や、投資活動に反映しているケースは少ないように思われる。キャッシュフローを生み出す源泉という位置付けにもかかわらず、具体的に投資効果を検討することなく研究開発投資を闇雲に増加させている事業者が多いのではないだろうか。

 研究開発投資の効率性に焦点をあてた考察事例を紹介する。榊原清則(2003年)は、「研究開発費と設備投資」、「研究開発費と利益」という2つの観点から研究開発の効率性について言及している。この中で、研究開発の成果を生産活動に結びつける面において近年の日本企業は問題を抱えているという示唆を導出している。また、村上路一(1999年)は、研究開発費と営業利益という観点から研究開発の効率性について考察を述べている。この中で、日本の代表的な製造業者9社の実データを用いて研究開発の効率性(【5年間の累積営業利益】÷【その前の5年間の累積研究開発費】という定義にて)を算出し、取り上げた9社の全体的な傾向として、研究費が利益に結びついていないことを示した。

(3)北米における研究開発に対する取り組み

  北米の多くの製造業では、自らリスクを負って研究開発投資を投じるよりも、自社の技術戦略上必要だと判断した技術やライセンス、その他ノウハウは積極的に外部から吸収(買収やアライアンスにより)しようとする傾向が強いことはよく知られている。このような動向は近年の光通信やIPを中心とした情報通信産業で顕著である。

 外部からの技術導入を積極的に実施している北米の製造業では、その技術の事業性、市場有望性、発展方向性などを念頭におき、同時に自社の持つ技術や戦略と照らし合わせながら、常に最新の技術モニタリング(テックモニタリング)を実施し、さらにDCF法(Discount Cash Flow法)やディシジョンツリーアナリシス、リアルオプションなどの技術評価手法を組み合わせ、最終的にCTOの判断を仰ぐ、といった一連の体制が企業内に整っていることが多い。

 さらに、北米においてはベンチャー企業の買収が盛んなことは一般的によく知られているが、特にシリコンバレーでは世界中から選りすぐりのイノベーションのタレントが集まっていることもあり、おのずと、新規技術に対する評価を専門としたハビタント(目利き役)の需要が自社内外を問わず高くなる環境を生み出しており、外部から必要な技術を積極的に獲得することが可能な土壌を形成する一役を担っている

 このように、自社の研究開発部門だけに閉じることなく積極的に外部とのネットワークを活用し、自社にとって有益な技術、ノウハウを取り込める環境を構築することは、研究開発の効率性を高めることに大きく貢献していると考えられる。

 また、自社外とのネットワークというよりは、むしろ自社内のネットワークや総合的な強みを利用して、研究開発の効率性を高めていると思われる企業がある。

 業績が本格回復してきた米IBMの会長兼CEOであるサミュエル・パルミサーノ氏は、「他社と違う存在を目指すなら自らのリスクで新技術に投資するしかない」(注1)との発言のもと、2002年以降ほぼ右肩上がりの研究開発投資を行っている。また、同氏は「第一線の基礎研究者と経営コンサルタントがチームを組んで顧客の問題解決にあたる試みを始めた」(注1)と発表。研究開発部門だけに閉じるのではなく、経営的高度専門知識を持ち合わせた視点(注2)を加えることにより、研究開発の効率性を向上させていると考えられる。