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連載企画 「デジタルPA産業創造の戦略を考える」

第2回「デジタルPA産業創造のための7つの戦略と課題」

日本総合研究所 研究事業本部 新保豊 主席研究員

(2004年6月14日掲載)


 前回では、「デジタル家電やデジタルAVを超えるものに?」として、主にデジタルPAの定義やその範囲について概要を示した。本稿では、「デジタルPA産業創造のための7つの戦略と課題」の骨子を示したい。

 このデジタルPAを戦略産業として創造していくための戦略とは何だろうか。その課題とともに7つの戦略の骨子を次に示そう。

(1)戦略1:自動車に比肩する息の長い戦略産業として育てよ

●狙いは何か、なぜ力を入れるのか(Why)

 具体的には例えば、次のようなことになる。
 関係企業の単なる新たな収益機会に過ぎないのか。
 それともエレクトロニクス産業やデジタル産業の力強いビークル(牽引車)になれるものなのか。ほぼ50年前の経済発展の契機となった、比較的短期で広く普及をした"3種の神器"(白黒テレビ、冷蔵庫、洗濯機)に出現した、息の長い産業となった自動車産業に相当するものは今はないのか。
 これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(2)戦略2:情報通信産業全体の幅広いプレイヤーを動員せよ

●誰が誰をターゲットとするか(WhoとWhom)

 具体的には例えば、次のようなことになる。
 主たるプレイヤーは家電メーカーや電子部品・半導体メーカーのみなのか。
 それとも通信会社(光ファイバーインフラ、モバイル通信インフラ含む)や放送会社、ISP、アプリケーション・コンテンツ制作会社などまでも加わった裾野の広い参加が有機的に見込めるのか。
 経済学での「合成の誤謬」、すなわち個々人としては合理的な行動であっても、多くの人がその行動をとると、好ましくない結果が生じる場合の問題はどうするか。つまり、個々の企業にとってその時は利得があると思われる行動が、当該業界(産業)全体においては必ずしも得策でないこと、例えば、半導体メモリを個々の企業が横並びで増産(減産)することで、需給は収束せずに暴落(急騰)する"シリコンサイクル"という数年置きの振動の波に翻弄される、ある種の慣性力をコントロールできない問題をどうするか。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(3)戦略3:家電領域に留めず"デジタルPA"を領域とせよ

●そのドメインはどこまでか(WhereまたはScope)

 同様に具体的には例えば、次のようなことになる。
 製品やサービスの提供先は消費者(生活者)のみに留まるのか。それともSOHOなどの仕事・ビジネス環境まで含めるべきなのか。
 需要側(ユーザー)の有効な主な利用シーンはどのようなものか。言い換えると供給側(メーカー等)の事業・サービスドメインはどこまで有効なのか。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(4)戦略4:消費者という需要側面から、より賢い生活者としてのCOPの側面へ昇華させよ

●需要側にとっての価値は何か(What)

 同様に具体的には例えば、次のようなことになる。
 米国では安いもの志向が特に強い。今のところウォルマートの日本進出がそう芳しくないのは、日米の消費者マインドが異なるからだ。これはデジタル家電やデジタルPAにおいても同様であろう。それでも、需要側にとっての価値とは、利便性や低価格性のみに留まるのか。
 あるいは需要側にとって別の価値・意味はないのか。例えば、顧客にとってユーザーのみの側面から、コミュニティ参加者としての意味(COP:Community of Practice)は出てこないものか。供給側から需要側へのパワーシフトはより進むのか。
 ICタグなどはそのときどのような役割を果たすのか。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(5)戦略5:Wintelモデルを超えよ、または日本型Wintelモデルを構築せよ

●競合他社に対する参入障壁や模倣障壁をどう高めるか(How)

 同様に具体的には例えば、次のようなことになる。
 顧客への価値を提供する供給側にとっての、欧米に加え、中国や韓国などの競合他社に対する差別化の工夫とはどのようなものか。これまでのPC分野に見られるIT産業では、参入障壁が低く想定外の企業が突如ライバルになる。
 技術か、それとも組織対応能力(ケイパビリティ)か。例えば、ブラックボックス化はどこまで有効か。
 あるいは設計段階でのデザイン要素か。
 差別化要因(参入障壁、模倣障壁)はどの程度高められるのか。またそれをどの程度維持できるのか。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(6)戦略6:打ち手に不確実性下のシナリオアプローチとリアルオプションという柔軟性を取り込め

●打ち手はどのタイミングで行うべきか(When)

 同様に具体的には例えば、次のようなことになる。
 供給側の打ち手(策)は、製品・サービスのライフサイクルのどの段階で、どのような手が最も有効なのか。場合によっては待ち、場合によっては打って出る。こうしたタイミングを計った行動が迅速に柔軟に打てるか。
 そのときの自社とパートナー企業との連携はどのようにあるべきか。あるいは、競合他社間や他市場とのダイナミックな(時系列上での当該要素との連動性を加味した)動きはどうか。
 不確実性下にあっても実需を読んだ設備投資を柔軟に打てることが、その事業もしくはプロジェクトにはリアルオプション価値を見出せることになる。これは、設備投資やIT投資に加え、研究開発(R&D)の仕方にも工夫が求められることを示すものだ。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

(7)戦略7:デジタル家電、デジタルAV、デジタルPAの次のコア産業を見出せ

●ドメインは更にどこまで拡充できるか(Where)

 同様に具体的には例えば、次のようなことになる。
 デジタル家電を超えた先の更なるドメインはどのようなものか。新たな市場(需要)創造の起点になる可能性についてはどうか。
 例えば、自動車産業に匹敵すると思われるロボット産業への結びついていくものなのか。近未来では、京都府精華町の情報通信研究機構で実験中の、情報家電とロボットが結びついた「知能住宅」に果たしてなっているのであろうか。
 同様に、これらへの明快な解をどのように見出すべきか、これが問題である。

 次回以降で、この「デジタルPA産業の7つの戦略」を具体的に紐解いていきたい。これら「7つの戦略」ひいては「7つの課題」に適切に対処できずして、デジタル家電やデジタルAVの将来はないといえよう。


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