RIM 環太平洋ビジネス情報 2001年7月Vol.1,No.2
アジアにおける不良債権問題と資産管理会社(AMC)
2001年07月01日 高安健一
要約
アジアの多くの国・地域にとって、不良債権の処理は依然として極めて大きな政策課題である。本稿で取り上げる、タイ、韓国、マレーシア、そしてインドネシアでは、資産管理会社(Asset Management Company;AMC)を設立し、銀行から大量の不良債権を移管するとともに、その最終処理に取り組んでいる。アジアの特色として、AMCの活用と法廷外(out-of-court)での企業債務再編交渉をセットにして、不良債権の処理が進められてきたことが指摘できる。
不良債権の処理に関し政府が実施する施策を、(1)self-reliance(不良債権を銀行の勘定に残し、銀行に解決を求める)、(2)debt-transfer(不良債権を専門的な回収機関に移管する)、(3)debt cancellation(不良債権の処分)の三つに区分すると、AMCは(2)のプロセスを担う機関である。
本稿で取り上げた4カ国のなかでは、マレーシアが最も政策転換が進んでおり、(2)を終え(3)の段階に入っている。韓国では、不良債権の処理のために多彩な仕組みが導入され、既に(3)の段階に入っているが、多額の企業債務の再構築に手間取っており、(1)から(3)までのプロセスが混在している状態にある。インドネシアは、比較的短期間のうちに(2)を実施する体制を整えたものの、(3)へ移行できる展望が開けていない。タイは、2001年に入ってから(1)から(2)へ大きく舵を切ろうとしている。
タイでは、政府や公的機関が前面に立つことなく、不良債権問題の処理は基本的に個別行にまかされ、「de- centralized AMC」が設立されてきた。金融システムは安定を取り戻したが、不良債権問題は依然として深刻な状況にある。2001年2月に就任したタクシン新首相は、「centralized AMC」であるタイ資産管理会社(Thai Asset Management Corporation; TAMC)を設立し、不良債権問題の最終処理を進めようとしている。
問題点を抱えながらもTAMCは、当初考えられていたよりも重要な役割を果たすことになろう。多くの銀行から債権を買い取るのに加え、債務者との交渉においてかなり強い権限を与えられることになった。
アジアでは、ポスト通貨危機の金融制度のあり方が論じられ始めている。その際に、97年以降の教訓を生かして、不良債権問題や金融システム再建を効率的に進めるための諸制度を予めビルトインしておくことが強く望まれる。
日本は、不良債権問題の処理に貢献する知的支援という点においては、目立った成果を上げることができなかった。不良債権問題という日本を含むアジア共通の問題への対応で、リーダーシップを発揮してきたのは韓国である。現状を変えるためには、日本自身が不良債権の処理を迅速に進め、知的支援に必要なノウハウを蓄積することが何にも増して重要である。加えて、現場で知的支援を行う専門家をアジアに派遣するためには、民間企業の採算を満たすような予算措置をとる必要がある。