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RIM 環太平洋ビジネス情報 2003年1月Vol.3 No.8

中国共産党第16回大会を振り返って考える

2003年01月01日 環太平洋研究センター 顧問 渡辺利夫


中国の国務院発展研究中心は、過日、2001年から2020年までの年平均実質経済成長率を約7%とする推計値を発表した。最初の10年間が7.2%、残りの10年間が6.8%だという。この長期推計の公表は、2002年11月の共産党大会に向けての予備的キャンペーンであろうと私は想像していたが、果たせるかなその通りであった。
大会初日、冒頭の党総書記による党活動報告において江沢民は、2020年の国内総生産額を2000年の4倍にする(「翻両番」)と高唱して、これを「小康社会」全面建設の奮闘目標として提示したのである。「翻両番」に要する年平均成長率は7.2%である。「小康社会」とは、まずまずのゆとりをもった社会といった意味である。
「翻両番」は1979年に「改革・開放」を開始した小平が政権掌握と同時に打ち上げた目標である。江沢民は明らかに小平を意識している。権力委譲後の影響力保持をねらい、胡錦涛政権をみずから設定した目標軌道の上に走らせるのだという政治的意志を、人民大会堂の壇上で華やかにも演出したわけである。

20年間にわたり年率7%を超える成長率を保持するというのである。中国の指導部が、暗雲漂う東アジアにあってひとり超然と高成長を持続するという自信を世界に顕示したものだと受け取る人々が多いであろう。事実、いくつものジャーナリズムがそう論評していた。しかし、7.2%成長率は、現在の中国が抱える難問を解消するための、政治的に許容しうる最下限の数値だというのが私の見立てである。
中国はWTO加盟により数年後には、全産業分野において貿易・外国投資の自由化まったなしの状態となり、激甚なるグローバル・メガコンペティションの波に洗われる。自由化が国有企業や農業などの弱体部門を淘汰し、弱体部門で用いられてきた労働力、資本、土地などの生産要素が効率的部門に再配分(資源再配分)されることにより、中国経済全体としての生産性は向上するであろう。とはいえ、発展のこの果実を中国が手にするまでには相当の長期を要する。

問題は資源再配分の過程で生じる社会的摩擦をいかに回避するかである。貿易・外国投資の自由化は国有企業改革の加速化を促進し、国有企業内に潜在する余剰労働力を市場に排出するであろう。中国語で「下崗」と称される一時帰休者を増加させ、帰休期間の生活費支給の負担に耐えられない国有企業が続出しよう。
農村の余剰労働力は、農村労働力のゆうに3割を超える。農産物貿易の自由化は彼らを顕在失業者化させ、都市への流出人口数を一段と大きくしよう。都市と農村の双方から生まれる労働供給圧力の強さについては、本誌次号の今井宏論文が明らかにする。
20年間にわたる7.2%成長はこれが創出する労働需要を想定してはじき出された数値にちがいない。その意味で7.2%成長は、強い労働供給圧力に抗することを可能ならしむる最下限の値であろう。これを下回れば社会的不安の発生を誘い出し、共産党独裁体制の根幹を揺るがせるという意味での政治的「閾値」が 7.2%だと私は受け取っている。
問題は失業ばかりではない。成長成果の配分の不平等に対する貧困住民の怨嗟の声はかつてなく大きい。地域間、都市・農村間、社会階層間の所得格差の拡大傾向はいまだ止まない。この事実は本誌本号の佐野淳也論文に詳しい。党・政府幹部の腐敗の問題が住民の不満をさらに強いものにしている。内陸部農村での農民暴動、国有企業の集中する東北部諸都市での住民騒擾のニュースが、このところ頻繁にわれわれの耳に入るようになってきた。

党総書記の党活動報告では次のように指摘されていた。
「腐敗に断固反対し、腐敗を防止することは全党の重要な政治任務である。腐敗を断固処罰しなければ、党と人民大衆との血と肉の結びつきは著しく損なわれ、執権党の地位が失われる危険があり、党は自滅に向かう恐れがある。」
ここしばらくの党中央文献には、党幹部の「拝金主義」「享楽主義」「個人主義」に警鐘を鳴らす内容のものが繁くみられるが、腐敗が党を「自滅」に導くといった穏やかでない表現に出くわしたのは初めてである。尋常ならざる実態を映し出したものなのであろう。
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