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RIM 環太平洋ビジネス情報 Vol.25,No.97

中国の不動産新発展モデルとは ―格差是正を重視した共同富裕の枠組みに―

2025年09月11日 佐野淳也


中国では、1980年代から1990年代末にかけて、住宅・土地制度改革が断続的に進められた。一連の改革によって、住宅は職場から分配されるものではなく、市場で売買される商品となった。土地の所有権は国家が引き続き持つものの、住宅所有者には土地の使用権が認められ、使用権の譲渡も可能になった。改革の結果、不動産市場は2000年代から2010年代末にかけて中国経済の成長エンジンとして大きな役割を果たした。

2010年代末までの不動産市場の発展は、住宅価格の高騰などの弊害も引き起こした。住宅を買えない庶民の不満が高まり、共産党体制の弱体化につながることを恐れた習近平政権は、融資総量規制などの不動産引き締め策を2021年から実施した。引き締め策の結果、不動産市場は急速に冷え込み、中国の不動産バブルは崩壊した。

2021年の中央経済工作会議で、習近平政権は「不動産の新しいモデルの探索」を初めて公式に提起した。提起された当初は、需要急減を踏まえて不動産融資規制を緩和するなどの対応に追われ、「不動産新発展モデル」の詳細は明示されなかった。2023年8月、中国政府は「14号文」を発表し、商品住宅一辺倒ではなく保障性住宅(公共住宅)の建設にも重点を置く新しい住宅供給政策を打ち出した。それ以降、習近平政権は、誰でも買える適正価格への誘導、給与所得者層の住宅需要の充足、などを目標とする「不動産新発展モデル」の加速を繰り返し指摘するようになった。

不動産新発展モデルの下、土地供給の抑制、保障性住宅の建設といった取り組みが始動した。中央政府が打ち出した新モデルに対して、地方政府は中央の意向を受け、保障性住宅の建設などの取り組みを今後加速させるとともに、土地販売以外の財源確保に注力すると考えられる。一方、民間開発業者には、デレバレッジによる債務圧縮とともに、住宅事業の縮小を迫られるなどの影響が予想される。

2022~2024年の保障性住宅の平均着工件数が2021年の2倍強に増加するなど、不動産新発展モデル下での各種政策は一定の成果を挙げている。さらに、不動産新発展モデルが順調に進展した場合、将来の不動産バブルの抑制や不良債権増大リスクの回避が期待される。

こうした成果の一方、地域によっては保障性住宅の供給が過剰になり、需給バランスが崩れる恐れがある。また、土地販売収入の減少などを背景に、一部の地方政府では財政危機に陥るリスクが浮上することが懸念される。不動産新発展モデルを成功させるためには、不動産以外の財源確保に結び付く税財政改革を着実に進めていく必要がある。そのほか、給与所得者や出稼ぎ者が積極的に購入・賃借したいと思える保障性住宅の供給も、大きな課題になろう。


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