リサーチ・フォーカス No.2025-032 国民健康保険の家計負担構造是正を 2025年09月03日 西沢和彦国民健康保険(国保)と国民年金の保険料収納率は、年齢と所得によって大きく異なっている。国保の保険料収納率の合計は 94.7%だが、25 歳未満・所得 200 万円未満の場合、収納率は 60%程度と極めて低い。他方、年金受給者に相当する年齢階級 65〜74 歳は、所得の多寡にかかわらず収納率はほぼ 100%である。こうした現象は当然ながら被用者保険では生じない。本稿は、国保に焦点を絞り、保険料収納率の差の現状と考えられる背景を整理し、対応策を考察した。背景として、まず、被用者と年金受給者とでは、同額の収入であっても保険料負担が著しく異なることである。これは大方の加入者にあてはまる。ある市町村を例に試算すると、収入 154.1 万円で被用者と年金受給者の保険料負担は、それぞれ 12.2 万円、2.0 万円と 10.2 万円もの差がある。同一収入同一保険料となっていない。これは、保険料の計算方法において、所得の定義、および、減免基準が、年金受給者は被用者に比べ寛大なためである。加えて、年金法において遺族年金と障害年金への公租公課が禁止されていることも年金受給者の保険料負担を軽くしている。次に、国保の保険料以外の若い世代の経済的負担であり、とりわけ国民年金保険料である。国民年金保険料は、20 歳以上 60 歳未満に対し年間約 21 万円が課せられる(2025 年度)。このほか、個人所得課税(所得税と住民税)、および、個々に事情は異なるものの奨学金返済も念頭に置く必要がある。現在、なんらかの奨学金を受給している大学生の割合は 55%である。さらに、2018 年度以降、国保の保険料算出において資産割(課税ベースは固定資産税額)を用いる市町村が急減しており、これも保険料負担において総じて持ち家率の高い年金受給者を有利にし、持ち家率の低い若い世代を不利にしている。こうした状況の是正は不可欠であり、第1に、不公平の一段の拡大を防ぐため2026 年 4 月に導入される子ども・子育て支援金の撤回が優先されるべきである。そのうえで、第2に、国保における被用者と年金受給者の同一収入同一保険料の実現である。第3に、保険料算出における資産割減少の誘因になったと考えられる 2018 年施行の国保改革の検証である。第4に、議論における縦割りの排除であり、社会保険料と租税はもちろん、奨学金制度なども含めた一体的な見直しが必要である。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)