リサーチ・フォーカス No.2025-019 米国トランプ薬価政策がわが国に与える影響―わが国の薬剤費政策の根本的転換の好機― 2025年06月06日 成瀬道紀米国トランプ大統領は、米国の薬価を最も薬価が低い国の水準にまで引き下げ(以下、最恵国待遇薬価)を目指す旨の大統領令に署名した。背景には、米国における新薬の価格が他の先進国と比べて著しく高く、米国の患者負担が重くなっていることに加え、諸外国が創薬イノベーションにただ乗りしているとの不満がある。トランプ政権としては、米国の薬価引き下げにとどまらず諸外国へ薬価引き上げを促し、国内外の薬価の均衡を目指しているとみられる。本稿は、こうした政策が実現した場合にわが国に与える影響を整理したうえで、求められる対応策を検討する。米国の薬価が高い主因は、諸外国では薬価に対する政府の関与が強いのに対し、米国では製薬企業が自由に薬価を決定できることである。米国政府が強制的に米国内の薬価を引き下げるには法改正が必要とみられ、実現可能性は不透明である。他方、諸外国の薬価引き上げについては、トランプ政権は通商問題として位置付け、関税などを交渉材料にしながら各国に圧力をかけてくる可能性がある。米国は世界の医薬品市場の4割強を占め、仮に最恵国待遇薬価が実現すれば、製薬企業の業績悪化を招くのはもちろん、わが国のドラッグロスの加速が強く懸念される。わが国はとりわけタンパク質から成る医薬品であるバイオ医薬品において諸外国に比べて薬価の低さが際立ち、米国は多くの製品で最恵国待遇薬価としてわが国の薬価を参照する可能性がある。その場合、製薬企業としては、米国への価格波及を防ぐため、低い薬価が付与されるわが国を避ける傾向が強まるとみられる。わが国は、諸外国と比べて薬価が低い一方で、薬剤使用量が極めて多い。これまで、政府は薬剤使用量が増えると薬価を引き下げることで、薬剤費の制御を図ってきた。もとより、薬価の引き下げに過度に依存せず、薬剤使用量を抑制する取り組みの強化が求められるが、米国の最恵国待遇薬価が実現する場合は、ドラッグロスの加速を防ぐためにもその重要性が格段に高まり、改革を進める好機となろう。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)