JRIレビュー Vol.8, No.135 AI 輸出規制の実効性と限界 ―アメリカ対中国を事例とする技術管理政策への示唆― 2026年09月10日 福田直之本稿は、アメリカの対中AI規制が、中国の安全保障上懸念されるAI能力の形成をどこまで制約しうるかを検討する。先端AIは民生にも用いられる一方、軍事、サイバー攻撃、情報活動にも用いられうる汎用技術である。そのため、AIの利用や開発を一律に規制しても実効性を確保しにくく、懸念される能力の形成を支える構成要素と経路に着目する必要がある。輸出管理は、安全保障貿易管理の制度であると同時に、相手国の依存や脆弱性に働きかけ、懸念される能力の形成経路を制約する手段でもある。先端AIの能力形成は、モデルだけでなく、先端チップ、HBM、半導体製造装置、クラウド計算資源、データ、人材、運用ノウハウなどの組み合わせに依存する。したがって、規制の効果は、これらの経路のどこをどの程度制約できるかによって左右される。輸出管理の実効性は、第1に規制対象への依存の強さ、第2に供給経路の集中性、第3に依存の持続性という3条件から判断できる。すなわち、規制対象がなければ懸念されるAI能力を形成しにくいか、代替調達や迂回の経路が限られているか、技術進歩や自前化が進んでもその対象への依存が残るかが論点となる。安全保障上の懸念から規制されてきた核兵器、ミサイル、暗号との比較から、輸出管理の効きやすさは技術によって異なることが分かる。核兵器は物質と設備への依存が強く、チョークポイントが比較的明確である。ミサイルは部材や試験設備を通じて一定の制約を受けるが、代替や自前化の余地もある。暗号は知識やソースコードとして拡散しやすい。他方、先端AIの能力形成は先端半導体や計算基盤に依存し、その継続的な拡大は半導体製造装置などの製造基盤にも左右される。この二面性が、AI関連輸出管理の実効性と限界を生む。対中AI規制は、先端チップ、HBM、半導体製造装置、クラウド計算資源へのアクセスを制約することで、AI開発に遅延と費用上昇をもたらしうる。しかし、中国には大規模な利用者市場、研究人材、政府・企業による投資、半導体製造基盤があり、AI能力はソフトウェア、データ、知識蒸留、アルゴリズム効率化によっても向上する。そのため、輸出管理は懸念される能力形成を恒久的に阻止する手段ではなく、能力形成の速度と費用に影響を与える手段と評価すべきである。わが国はアメリカの規制に追随するだけでなく、半導体製造装置、素材、電子デバイス、精密加工、検査・計測など、他国の能力形成を制約しうる領域を見極める必要がある。制約効果の高い対象を早期に特定し、限定的かつ重点的に管理するとともに、第三国経由の抜け道管理、営業秘密や研究協力を含む技術防護、国内技術基盤の強化を組み合わせることが求められる。AIに続く新興技術を管理していくため、規制の効きやすい対象を狭く定め、深く、持続的に管理するといった措置がわが国に求められよう。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)