JRIレビュー Vol.4, No.131 生成AI と日本の雇用 ―若年層の技能形成をどう確保するか― 2026年04月20日 福田直之ChatGPTに代表される生成AIは、文書の下書き、データの整理、定型対応といった仕事を人間の代わりにこなせるようになった。こうした仕事はこれまで、社会に出たばかりの若年層が仕事の基本を覚えるエントリー業務だった。アメリカではいま生成AIの影響でエントリー業務に就く若年層の雇用が目に見えて減っている。一方、ベテランの雇用は安定しており、生成AIが「年功偏向型の技術変化」をもたらしていると指摘される。わが国では、少子高齢化による人手不足や、メンバーシップ型雇用、新卒一括採用といった雇用慣行がクッションになっており、アメリカのように若年層の失業が急増するような事態は起きにくい。わが国で心配されるのは、雇用の数が減ることではなく、若年層が仕事の技能を形成できないまま年を重ねてしまう問題である。わが国のメンバーシップ型雇用は、まず簡単な仕事から始めて、OJTで成長し、少しずつ重要な仕事を任されるというプロセスで人材育成を進めてきた。この出発点を生成AIが担ってしまうと、育成の仕組みが内側から崩壊する恐れがある。職場での実地訓練であるOJTを通じてじわじわと身につくはずの技能が形成できないまま時が過ぎる恐れがあり、「就職はできたけれど、仕事を学べなかった世代」が生まれかねない。問題が顕在化するのは、生成AIが普及した時期に入社した世代が、事業の判断を担う管理職になる5〜10年後である。手遅れを防ぐため、今から対策を打つ必要がある。「若年層の育成は各社が取り組めばいい」という発想では、この問題の解決は不可能である。第一に、少子化で若年層が希少となる社会では、育成済みの人材の価値が上がり容易に転職してしまうリスクがあるため、企業は積極的になりにくい。第二に、経験の質が下がっても数字に表れにくく、問題に気づくのが遅れる。第三に、ライバルとの激しい競争のなかで「育成への投資」は後回しにされがちだ。結果として、社会全体で若年層への育成投資が少なくなる、という悪循環に陥りやすい。こうした「経験格差」を防ぐため政策は三つに整理できる。(1)生成AI導入と並行して若年層の育成投資を行う企業に対し、財政・制度面からの公的支援を拡充するとともに、大学・高専などでの入社前の訓練機会を整備する、(2)企業が短期的な利益優先で「人への投資」を切り捨てないよう、人的資本への投資状況の開示を求め、市場からの規律を働かせる、(3)生成AIが若年層のエントリー業務や経験に与える影響を社会全体で継続的に把握・可視化するため、全国統計などのデータ基盤を整備する。就職氷河期は「雇用の機会そのもの」が失われた時代だった。次に来るのは「就職はできたけれど、技能が身につかなかった」という、雇用の質の問題である。こうした事態を避けるために、官民が協力して今から手を打つことが求められる。(全文は上部の「PDFダウンロード」ボタンからご覧いただけます)