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Economist Column No.2026-051

社会保険料負担軽減の焦点は医療保険制度改革

2026年08月12日 成瀬道紀


■骨太の方針に現役世代の社会保険料率引き下げが明記
本年7月に閣議決定された経済財政運営と改革の基本方針2026(骨太の方針)に、現役世代の社会保険料率を引き下げていく方針が明記された。社会保険料は大きく分けて、年金・医療・介護があり、今後、現役世代の人口が急減し、団塊の世代が要介護状態になりやすい80歳代に差し掛かっていくことを踏まえると、年金と介護の保険料率引き下げは難しい状況である。そのため、社会保険料率の引き下げに向けては、医療保険料率をどこまで引き下げられるかが焦点となる。
医療費は、医療保険料、税、患者自己負担の三つの財源で賄われる。よって、医療保険料率を抑制する手段は、①医療費への税投入の増加、②患者自己負担の増加、③医療費そのものの抑制、の三つに整理できる。

■医療費への税投入の増加
それぞれの状況についてみると、まず、医療費への税投入の増加は、現在のところ政府が医療保険料抑制策の主軸に据えようとする姿勢はうかがえない。むしろ、8月に入り、社会保障の重要な財源である消費税に関して、食料品の税率を2027年4月から2年間暫定的に8%から1%に引き下げる方針を閣議決定するなど、医療費への税投入増加を展望しにくい財政環境となっている。もっとも、本来、再分配は賃金への依存が大きい保険料ではなく、個人の負担能力をより反映しやすい税が担うべき役割である。そもそも、政府が国民受けの悪い増税を避け、財政的に苦しい高齢者医療への支援などの再分配に現役世代の医療保険料を用いてきたことが、保険料負担の重さの大きな要因である。中長期的には、リスクへの備えは保険料、再分配は税という基本的な役割分担のもとに、増税に正面から向き合い、制度の再構築が求められる。

■患者自己負担の増加
次に、患者自己負担の増加については、政府はすでに大きく二つの施策を決定している。一つは、成分や効能が市販薬(OTC医薬品)と似ているにもかかわらず保険給付の対象となっているOTC類似薬の一部について、2027年3月から患者への追加負担を求めることである。もう一つは、高額療養費制度の自己負担限度額を2026年8月から段階的に引き上げることである。これらに加えて、高齢者の自己負担割合を原則現役世代と同じ3割に引き上げる案も議論されているが、実現にはなお高いハードルがある。

■医療費そのものの抑制
最後に、医療費そのものの抑制について、上述の患者自己負担の増加は、医療需要の減少を通じて、医療費総額の抑制にもつながると考えられる。これに加え、供給側へ働きかける医療費抑制策も骨太の方針に明記されている。具体的には、病床削減、一枚の処方箋を繰り返し使えるリフィル処方箋の推進、経済性を考慮した医薬品の使用指針であるフォーミュラリ活用などである。もっとも、供給側の理解を得るのは容易ではなく、具体策はいまだ検討中の段階である。

■医療保険料率引き下げと必要な医療へのアクセス確保の両立へ向けて
すでに決定したOTC類似薬への患者追加負担と高額療養費制度の自己負担限度額引き上げだけでは、医療保険料率を顕著に引き下げるほど大きな財政効果は見込みにくい。医療保険料抑制のための追加的な施策が不可欠であるが、患者自己負担増加に過度に依存すれば、必要な医療へのアクセスまでも損ないかねない。従って、単なる保険料から患者への負担の付け替えにとどまらず、医療の必要性に応じて給付にメリハリをつけるとともに、供給側にも効率的な医療サービス提供を促す改革が求められる。幅広い医療に一律に給付し、医師の裁量を広く認めてきたのがわが国の医療制度の大きな特徴であるが、これらを聖域とすることなく改革に踏み込めるかが、現役世代の負担軽減と必要な医療へのアクセス確保の両立の鍵を握る。


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