Economist Column No.2026-042
多死化がもたらす構造変化と社会的負荷 ― 「最期」を支える社会インフラや金融システムの迅速な構築を ―
2026年07月16日 下田裕介
■想定より上振れが続くわが国の死亡者数
厚生労働省「人口動態統計」によると、わが国における2025年の日本人の死亡者数は158万9,489人となった。国立社会保障・人口問題研究所(社人研)の人口推計(死亡中位)では、2025年の死亡者数の推計値は、151万6千人となっており、7万4千人(4.9%)上振れたことになる。年齢別にみると、75歳以上の死亡者数が、同推計対比5万6千人上振れている。ちなみに、社人研の死亡高位推計では、同年の死亡者数は161万7千人となっており、中位推計よりも、高位推計に近い動きとなっている。
このような死亡者数の上振れは、コロナ禍以降顕著となっており、2021~25年の5年間累計で、社人研の中位推計対比32万人上振れている。死亡者数が上振れている背景として、新型コロナの影響で平均寿命が縮んだことが指摘されている。厚生労働省は、長期的なトレンドの変化と断定するのは早いとの見方を示しているが、死亡者数の水準が当初の見立てより数年早く推移しているのは事実である。
■多死化がもたらす影響
想定を上回る死亡者数の増加は、わが国のさまざまな面で影響を及ぼす。まず、人の死に関わる社会インフラの供給不足である。すでに都市部を中心に火葬場の不足や火葬待ちが常態化しつつあるが、こうした事態がより深刻化するおそれがある。加えて、人手不足が顕著な医療・介護の現場において看取りの負担が増大するなど、人生の最期を支える供給体制のひっ迫が一段と強まることが予想される。
一方、金融面では相続件数の増加が見込まれる。人が亡くなると、遺族は故人の銀行口座の凍結解除や名義変更、有価証券(株式、投資信託など)の移管、生命保険金の請求など、多岐にわたる手続きに直面する。相続件数が増加することで、こうした手続きを処理する金融機関の負担が増大し、その結果、手続きの遅れや事務処理の長期化が発生すると考えられる。
また、相続においては不動産も対象となる。金融資産と異なり、立地など条件によって価値が大きく異なる不動産は、相続自体を負担に感じる人も多く、空き家のまま放置されるケースが少なくない。死亡者数の上振れによって、空き家の増加が加速するおそれがある。
■多死社会における最期を支える基盤と資産承継のあり方
多死社会がもたらす問題に対して求められるのは、まず、人の死にまつわる社会インフラの再構築である。例えば、火葬場については新設・増設が選択肢となるものの、施設の性格上、用地の確保などを含め、即時の対応は難しい。そのため、自治体間での広域連携や、六曜にとらわれない供給体制など、既存施設の稼働率を全体として高めていくことが重要となる。
次に、デジタル技術の活用を通じた資産の流動化の促進である。例えば、マイナンバーカードを用いて金融機関口座や不動産、戸籍などの情報を一括・オンライン管理することで、相続実務のボトルネックを解消したり、不動産のマッチングを強化して、空き家の増加を抑制したりすることなどが期待される。これらの実効性を高めるには、情報を紐づけるだけでなく、行政のほか、銀行・証券・保険など民間も含めたデータフォーマットを共通化し、一度のデータ入力でさまざまな手続きを一括して完了できるようなワンストップ・プラットフォームの構築が必要である。実際、国による死亡・相続手続きのオンライン・デジタル化のほか、一部の金融機関では他社をまたぐ相続手続き対応など、ワンストップサービスに向けた動きが出始めている。このような死亡や相続にまつわるインフラを、官民一体となって全国規模で展開していくことが望まれる。
想定を上回るペースで多死化が進む状況を踏まえると、こうした取り組みのペースを速めていくことが重要となる。社会環境の変化に適応し、「最期を支える安心の基盤」と「円滑な資産移転の仕組み」をより迅速に機能させることが、将来にわたり持続可能で安定した社会の構築につながる。
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