Economist Column No.2026-039
副首都法案の成立で何が変わるのか ― 東京一極集中から多極分散型国家への第一歩 ―
2026年07月13日 若林厚仁
第221回特別国会の会期末が迫るなか、副首都法案の審議が進んでいる。日本維新の会は副首都構想を党の最重要政策として掲げており、同法案の成立は、東京一極集中の是正、および多極分散型国家の実現に向けた重要なターニングポイントとなる可能性がある。一方で、世間の関心は必ずしも高いとは言えず、内容についても広く認知されているとは言い難い。本稿では副首都法案が成立することで何が変わるのか、改めて確認したい。
■副首都は「首都中枢機能のバックアップ」と「多極分散型経済圏の形成」を担う
今回の副首都法案(正式名称は「国家社会機能継続性確保施策及び副首都の整備に係る施策の推進に関する法律案」)は、2023年に国会に提出されたものの、成立には至らなかった副首都機能整備推進法案をブラッシュアップした、日本維新の会にとって最重要政策の一つである。法案の目的を一言でまとめると、「首都中枢機能のバックアップ」と「多極分散型経済圏の形成」の役割を担う「副首都」を法律で定義することにある。
「首都中枢機能のバックアップ」とは、首都直下地震のような大規模災害が発生した際に、東京圏における政治・行政・経済等の中枢機能を代替することである(三権分立の観点から、国会と裁判所はそれぞれが自身で検討するとされている)。ここで留意すべきは、首都中枢機能の代替について、「首都中枢機能代替地域」が一部、「副首都」が全部または大部分を担うとされていることである。首都中枢機能代替地域とは、大災害時限定の代替地域である一方、副首都は大災害時の代替機能を担うだけではなく、平時は多極分散型経済圏の形成の中核となる機能も担う道府県と定義されている。すなわち、首都中枢機能代替地域として、小規模な地方都市を含めた複数の都市が選定される可能性がある一方、副首都は地域経済の中核として相応の経済規模が求められるため、大都市圏に候補先は絞られるとみられる。
■大阪に一日の長があるものの、大阪ありきではない
法案成立後の流れとしては、公布日から3カ月以内に施行された後、政府が1年以内に基本方針を策定し、同方針に基づき道府県が申出を行い、内閣総理大臣による副首都指定を受けることとなる。指定の際には、①災害面(東京と同時被災リスクが小さい)、②経済面(相応の経済・人口規模を有する)、③行政面(相応の国の行政機構を有する)などが考慮される。こうした副首都の要件を踏まえると、有力候補としては、愛知県・大阪府・福岡県の3府県が考えられる。複数府県が選ばれる可能性もあれば、指定から漏れた府県は首都中枢機能代替地域となる可能性もある。
愛知県は製造業の集積やリニアの開業計画、大阪は京阪神に跨るバランスの取れた経済基盤、福岡県は被災リスクの小ささやアジアの玄関口といった強みがあり、どの府県も副首都の要件は十分にある。こうしたなか、大阪府については、府市一体で専担の副首都推進局を設け、副首都ビジョンを策定するなど、10年前から副首都実現に向けた制度設計を進めているという点では一日の長があるものの、法案では地域については一言も触れておらず、様々な状況を踏まえて、総合的に指定されるとみられる。
なお、法案には道府県から「都」に名称変更するためには特別区の設置が必要であるという附則があるため、大阪都構想において特別区の制度設計を進めてきた大阪府ありきという声もある。もっとも、これは単なる名称変更に関する話であり、副首都に指定されても「都」に名称変更する必要はない。また、大阪都構想は府市二重行政の解消を目的とした地方制度改革であり、国家レベルの機能移転を目的とした副首都法案とは性質が異なる。これまでの経緯や背景を勘案すると、副首都構想と大阪都構想は全く無関係とは言えないものの、基本的には別物として取り扱うべきであろう。
■検討すべき課題も多いが、期待も大きい
副首都指定により、どの程度経済基盤が強化されるかを現時点で見通すことは難しいものの、法案では、①税制優遇や規制緩和による産業競争力の強化、②交通網や都市基盤の整備、③国の機関(国の出先機関や独立行政法人など)の整備、を行うとされている。鉄道や空港などのインフラ投資に加え、民間企業の本社移転・支社設立、特定産業の誘致・集積などが進むことで、我が国の副首都を名乗るに相応しい都市基盤の整備が進むことが期待される。
もちろん副首都指定には課題も多い。東京近郊でも、立川広域防災基地など首都直下地震に備えたバックアップ体制の整備は既に着々と進んでおり、新たな首都中枢機能代替地域の整備については、機能やコストも踏まえて慎重な検討が求められる。また、東京一極集中には経済活動の集約によるコスト削減、高度な人材・インフラの集積による高付加価値産業の創出、国際的な都市間競争力強化などのメリットがあり、副首都設置による分散化が逆にわが国の競争力を弱める可能性はゼロではない。
一方で、東京圏の不動産価格高騰や地方の人手不足の深刻化など、東京一極集中によるマイナス影響も年々大きくなっている。こうしたなか、副首都指定とは、東京圏に次ぐ日本の中枢地域という国の「お墨付き」を与えることであり、中央集権体制を前提とした現在の地方創生のあり方を大きく変える、日本の統治機構制度の重要なターニングポイントとなる可能性を秘めている。副首都の実現に向け、まだ超えるべきハードルは多数あるものの、国・地方公共団体・民間事業者が連携し、実効性ある制度として具体化されていくことが期待される。
※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼できると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。