Economist Column No.2026-036
原油高で迎えるエルニーニョ現象、世界的なインフレに ― わが国は対症療法的な対策からのシフトが必要 ―
2026年07月09日 古宮大夢
■原油高とスーパーエルニーニョ現象の同時発生
気象庁は7月10日、エルニーニョ監視指数(監視海域の水温と基準値との差)の実況と来年1月までの見通しを発表する。エルニーニョ現象の発生はすでに前回6月10日の発表で確認されており、現在はどれほど強いエルニーニョ現象になるかが焦点となっている。気象庁の予測では、夏から秋にかけて海面水温が平常時から2℃上昇する「スーパーエルニーニョ現象」となる可能性が高い。欧州でもEUの気象情報機関が足元の世界の海面水温が同時期として過去最高を記録したと発表しているほか、米国でも海洋大気局(NOAA)が観測体制が整った1950年以降で最大級の規模になると予測している。
エルニーニョ現象が経済に与える影響として最も懸念されるのは、農業生産の減少による食料インフレである。エルニーニョ監視指数は1年半遅れて世界の食料価格に波及する傾向があり、スーパーエルニーニョ現象の場合、世界の食料価格の伸びは10%ポイント以上押し上げられる計算になる。なかでもアジア圏ではエルニーニョ現象の影響が早く波及し、インドではすでに砂糖の輸出が禁止されている。また、エルニーニョ現象の発生源である南米ペルー沖では、海水温の上昇によりカタクチイワシなどが深刻な不漁となっており、養殖飼料に不可欠な魚粉の国際価格が過去最高値を更新している。
直近でスーパーエルニーニョ現象が発生した2010年代半ばとの最大の違いは、原油価格の動向である。前回は原油価格が100ドル前後から30ドル台へと大幅に下落した局面であり、スーパーエルニーニョ現象が発生したなかでも食料インフレは限定的であった。一方、今回は中東危機による原油高で肥料価格や輸送コストなどが上昇しており、世界の食料価格は足元ですでに上昇している。原油価格が前年比+10%ポイント上昇すると半年後の世界の食料価格指数は前年比+1%ポイント上昇する傾向があり、WTI原油先物価格が1バレル=100ドル程度で高止まりするなかでスーパーエルニーニョ現象となれば、世界の食料価格指数の上昇率は20%ポイント以上押し上げられることになる。
■アジアでは電力不足もインフレ圧力に
エルニーニョ現象による経済影響として、降雨の減少による電力不足も懸念される。多くの日本企業が進出しているASEAN諸国や中国では、水力発電への依存度が大きい。エルニーニョ現象によって主要な河川の水位が低下して水力発電が不足し、製造業やサービス業の生産活動が制約されれば、わが国の現地法人も影響を受ける可能性がある。また、電力不足は高温による冷房需要の高まりと相まって電力価格の高騰につながるほか、水力発電の代替となる他のエネルギー資源の価格高騰がインフレ圧力をさらに高める恐れもある。足元では、エルニーニョ現象による電力不足を見越して中国が火力発電用の石炭備蓄を増やしているほか、アジア各国がガス火力発電の稼働率を高めており、天然ガス価格が押し上げられている。
■日本も気候変動へのレジリエンス強化を
わが国にとって今般のエルニーニョ現象は、交易条件のさらなる悪化を意味する。食料やエネルギーの輸入依存度が高いうえ、歴史的な通貨安にも直面しており、輸入インフレが強まるためである。これに対して、エネルギー補助金などの対症療法的な対策に過度に依存すれば、財政規律への市場の警戒感が一段と強まり、一層の円安進行を招きかねない。温暖化の影響などで異常気象が常態化するなか、エルニーニョ現象のような周期的に発生する自然現象に対して、省エネや脱炭素エネルギー導入の促進によってエネルギー制約を和らげることが重要である。政府においては、気候変動への対応の観点からも投資分野の重点化などを図り、エネルギー面のレジリエンスを向上させていく必要がある。
<参考文献>
古宮大夢[2026]、「エルニーニョ現象でインフレ圧力がさらに強まるアジア経済 ― スーパーエルニーニョは食料価格の前年比を+13%押し上げ、水力発電の供給制約も ― 」、日本総合研究所、リサーチ・アイ、No.2026-015。
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