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Economist Column No.2026-034

AI競争の勝敗を左右する電力インフラ

2026年06月25日 王婷


■拡大する電力需要
AIの急速な普及に伴い、データセンターや半導体工場を中心に電力需要の増加が見込まれている。さらに、自動運転やロボットの普及が進めば、電力需要は従来の想定を大きく上回るペースで増加する可能性が高い。IEA(国際エネルギー機関)[2026]によれば、2030年までの世界の電力需要は、エネルギー需要全体の少なくとも2.5倍のペースで増加する見通しである。
もっとも、AI時代の課題は電力需要の増加にとどまらない。学習処理には長時間の安定稼働が必要であり、推論処理では時間帯による需要変動への対応が求められる。加えて、瞬時の出力変動に対応する柔軟性や周波数・電圧を安定的に維持する電力品質の確保も欠かせない。
IEA[2025]は、AI時代の電力問題を単なる供給力の確保だけではなく、系統運用、需給調整、エネルギー安全保障、持続可能性を含む複合的な課題として位置付けている。求められるのは、電源、送電網、蓄電設備、需要制御、データセンター立地、通信インフラを一体的に整備する視点である。

■米国・欧州・中国の三者三様の対応
AI時代を支える電力インフラを巡っては、米国、欧州、中国がそれぞれ異なるアプローチを採用している。
米国では、大規模データセンターの需要拡大を背景に、巨大テック企業が多様な電力調達やインフラ投資を主導している。天然ガス、原子力、蓄電池、仮想発電所(VPP)など、企業が選択する電力源は幅広く、計算能力を確保しながらインフラの整備を進めている。他方で、発電所の建設に時間がかかっているほか、送電網への接続にも長い待機期間が生じるなど、電力インフラの整備が需要拡大に追いつかないとの懸念も強まっている。
欧州では、再生可能エネルギーの拡大を軸に、統合が進められてきた電力市場の中で需給調整を図るルールの整備が進んでいる。EUでは、データセンターについて一定規模以上の事業者に対しエネルギー性能や持続可能性に関する情報開示を求めるなど、ルールの設計を通じた対応が特徴である。ただし、電力供給や系統整備が需要の増加に対し、十分な速度で進むかは依然として課題である。
中国では、再生可能エネルギー、超高圧送電網、蓄電池、AI制御、データセンター、ゼロカーボン園区など、国家による計画主導で広域的なインフラが整備されている。代表例は、「東数西算」で、東部で発生するデータ需要を再生可能エネルギー資源が豊富な西部で処理する体制の構築を進めている。また、「電力・算力協働」に象徴されるように、電力供給と計算能力を一体で整備する政策も展開されている。
このように、米国は市場主導、欧州はルール主導、中国は計画主導という違いはあるものの、いずれもAI競争力の基盤として電力インフラ整備が重視されている点は共通している。

■日本が取るべき対応
AI競争を巡る議論では、エネルギー政策とAI産業政策を一体的に捉える必要がある。電力供給力や送電網の制約がボトルネックとなれば、日本のAI競争力を制約する恐れがある。とくに、日本は天然ガスなどの資源を海外に大きく依存しているうえ、欧州や中国で進められているような広域的な電力インフラ整備も十分とはいえない。こうした課題を乗り越える対応が不可欠である。
まず求められるのは、将来の電力需要を見据えた供給力の確保である。中長期的な需要想定を前提に、電源投資と制度整備を早い段階から進める必要がある。エネルギー安全保障の観点からも、再生可能エネルギーや蓄電池の導入拡大を着実に進めることが求められる。
次に、データセンターの立地戦略を見直す必要がある。現在は東京圏・大阪圏とその周辺地域に集中しているが、今後は計算需要の一部を、北海道や東北など再生可能エネルギー資源や用地に比較的恵まれた地域へ分散させることも検討に値する。
さらに、再生可能エネルギーの供給拡大を支えるためには、電力システムの統合性と柔軟性を高めることも求められる。蓄電池やデマンドレスポンス、AIを活用した系統運用などを組み合わせ、需給調整能力を高める必要がある。同時に、再生可能エネルギーの豊富な地域から需要地へ電力を運ぶ長距離・大容量の送電網整備も欠かせない。
もっとも、こうしたインフラ整備には長い時間と多額の投資を要する。費用負担のあり方や、データセンター事業者に求める接続責任・調整責任についても、早期に議論を進める必要がある。
AI競争は計算能力だけを競うものではない。それを支える電力インフラの競争でもある。この認識に立ち、エネルギー政策と産業政策を一体的に推進するとともに、AI投資を呼び込むための電力インフラ整備を加速させることが求められる。

参考資料
International Energy Associate(IEA)[2026]. Electricity 2026: Analysis and forecast to 2030, International Energy Agency Website.
International Energy Associate(IEA)[2025]. Energy and AI: World Energy Outlook Special Report, International Energy Agency Website.


※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。
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