Economist Column No.2026-022 中国EV産業の課題と今後の方向性 2026年05月13日 王婷■新エネ車産業の「増量不増収、増収不増利」中国の北京では、「スマート電気自動車発展シンポジウム」が4月に開催された。このシンポジウムは毎年開催されており、中国の新エネ車産業の発展動向を把握するうえで重要なイベントである。今年も多くの関係者の注目を集めた。注目を集めている背景には、新エネ車産業の急速な発展とそれに伴う構造問題が挙げられる。中国では、新エネ車の販売台数は昨年1,600万台を超え、全自動車販売の半数を占めるようになった。これは従前の政策目標(2030年に普及率40%)が5年も繰り上がって実現したことを意味している。急成長の裏では、技術の同質化や価格競争の激化といった構造的な問題も深刻になっている。特に、「内巻」(国内での競争)が激しく、「増量不増収、増収不増利」(販売台数は増えても売上は伸びず、売上が伸びても利益は増えない)という現象が生じている。こうした問題を生む最大の要因として、製品更新のスピードと収益性の乖離が挙げられる。従来の内燃機関車は5〜7年周期でモデル更新が行われるのに対し、新エネ車は1~2年周期という。電池、チップ、ソフトウェアなどの技術更新のスピードが速くなったために製品サイクルが短く、過剰な供給能力と非効率な設備投資を招いている。また、価格競争と価値創出力の不足も収益力を引き下げている。技術の普及で製品差別化が難しく、最近では値下げが主要な競争手段となり、ブランド価値の構築が困難になっている。■新エネ車産業の方向性シンポジウムでは、今後の方向性がテーマとして設定されることが多い。今年のテーマは「スマート化・グリーン化・融合化・国際化」であり、なかでも目立ったのが「融合化」である。これは、従来のような単一製品の性能を重視するのではなく、複数の機能やサービスを組み合わせた「システム」としての価値を重視する方向への転換を示している。とりわけ、以下2点が今後の新エネ車のあり方を大きく転換させる。第1に、「移動手段」から「インフラ」への転換である。新エネ車は、単なる移動手段ではなく、エネルギー供給、データ処理、サービス提供を担う存在へ変化している。例えば、V2G(Vehicle to Grid)を通じて車から電力網へ電気を供給することが可能となっている。また、車載AIと通信機能を活用し、充電管理、道路インフラとの情報連携、地図やソフトウェアの更新など、多様な機能やサービスを提供できる。すなわち、車は多様な価値創造を担うインフラへと変容しつつある。第2に、「機能価値」から「感情価値」への転換である。新エネ車の時代において、車は単なる性能の塊ではなく、ユーザーのライフスタイルや価値観を体現する存在となる。とくに若い世代では、車選びにおいて特別感や安心感、快適さ、愛着といった感情面の価値が重視されるようになっている。例えば、デザインや塗装、音声設定などを自分好みに変えられることは、「自分らしさ」を表現する楽しさにつながる。車がドライバーの疲れを検知して休憩を促したり、搭乗者の状況に応じて音楽や照明、香り、シート設定を調整したりする機能は、単なる便利さを超えて、安心感や心地よさをもたらす。こうした体験は、車を「使う道具」から「気持ちよく過ごせる空間」へと変えていく。このように中国の新エネ車産業は、価格競争を中心とする発展段階から、価値創造を競う段階へと移行しつつある。新エネ車メーカーにとって、今後の競争力は、単一製品の性能優位ではなく、エネルギー、データ、サービス、ユーザー体験などを統合するシステム化能力に規定されると考えられる。※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。