■在宅勤務や海外旅行の自粛を国民に呼びかけ
中東情勢の先行きを巡る不透明感が続くなか、5月10日、インドのモディ首相が在宅勤務や海外旅行の自粛を国民に呼び掛けた。この狙いは、中東諸国への輸入依存度の高い燃料の供給不足を防ぐとともに、通貨ルピーの下落圧力を和らげることにある。
これまでインドは、①輸入調達先の切り替えと多角化、②国内供給を優先する輸出規制、③代替燃料の利用促進、④補助金や減税による価格抑制策など、国内の経済活動をできるだけ制限しない方法で国内のエネルギー供給の安定を図ってきた。それだけに、今般、政府が国民のライフスタイルに踏み込んだ要請を行ったことは、インドのエネルギー供給の安定に向けた対応策が新たな段階に入ったことを物語っている。
現時点では、在宅勤務や海外旅行の自粛は「要請」の段階だが、深刻な供給不足に陥るリスクが高まる場合、法的拘束力を持つ「義務」へと強化されるだろう。また、規制の対象も、移動制限から石油・ガス製品を使用する様々な活動に広がっていくと予想される。
■より重要なのはエネルギー構造の転換やエネルギー利用効率の改善
燃料需要抑制策は、エネルギー供給の安定には有効である。しかし、景気悪化に伴い資本流出が加速し、政府の思惑に反してルピー安とインフレの悪循環に陥るリスクを高めることには留意が必要である。コロナ禍中、厳格な移動制限を受けてインド経済は大幅に悪化し、失業やそれに伴う自殺といった社会問題が深刻化したことも忘れてはならない。その結果、規制緩和を余儀なくされたことを踏まえると、燃料需要抑制に向けた厳格な規制の導入にも限界がある。
したがって、インド政府には場当たり的な対応策ではなく、より持続可能性の高い取り組みへの注力が必要となる。具体的には、①原油と比べて自給率が高い天然ガスの利用拡大、②バイオマス由来の燃料や化学製品の生産・利用促進、③石油・ガスの利用効率改善、④輸送機器や生産機器の電化と再生可能エネルギーの導入拡大などが挙げられる。また、実用化には時間がかかるが、グリーン水素・アンモニアなどを含め、次世代エネルギー技術の開発を加速させることも極めて重要である。
インドのエネルギー供給の安定は、世界経済にとっても重要である。そのため、日本企業は、インドビジネスの拡大と世界のエネルギー供給の安定化、双方の観点から、こうした構造転換に伴い市場拡大が見込まれる分野への参入を前向きに検討すべきである。
【参考文献】
熊谷章太郎[2026]「中東危機とインドのエネルギー安全保障戦略 ~日本はエネルギー構造の転換に伴う商機に注目すべき~」日本総合研究所 『リサーチ・フォーカス』 No.2026-009
https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchfocus/pdf/16677.pdf
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