Economist Column No.2026-011
財政規律の向上には多年度予算編成と独立財政機関が必要
2026年04月23日 村瀬拓人
■財政運営に対し高まる市場の警戒感
長期金利の指標である新発10年債利回りは、4月13日に一時2.49%と、1997年6月以来の水準まで上昇した。4月7日に成立した2026年度当初予算の新規国債発行額は、2年連続で30 兆円未満に抑えられたものの、近年は補正予算の編成時に発行額が大幅に積み増されており、歳出膨張に伴う国債増発への懸念を払しょくしきれていない。足元の金利上昇ペースの加速は、財政運営に対する市場の警戒感の顕れであり、高市政権が目指す「行き過ぎた緊縮財政」から「責任ある積極財政」への転換には、これまで以上の財政規律が必要といえる。
■常態化する大型補正予算
財政規律の向上に向けた課題の一つが、常態化する大型補正予算の適正化である。新型コロナの収束後も、10兆円を超える規模の補正予算の策定が続いており、2025年度の一般会計における補正予算での追加額は18兆円と、予算全体の13.7%に上る。費目や部局によっては、補正後の予算が当初予算に比べ大幅に積み増されたケースもあり、経済産業省予算(特別会計への繰り入れ分を除く)は、当初予算の0.35 兆円から補正予算で2.37 兆円と、7倍弱に膨れ上がっている。
概算要求基準(シーリング)が設定される当初予算では、歳出総額や新規国債発行額が厳しく抑制されている。そのため、継続的に必要な支出であっても当初予算ではなく補正予算に計上せざるを得ないケースが出てきており、結果として補正予算が大型化している側面がある。もっとも、補正予算は当初予算に比べ予算編成や議会での審議に要する時間が短いため、非効率・不必要な支出が計上されやすく、補正予算を含めた財政支出全体の規模や配分の妥当性に疑問が残る。さらに、成長投資のような中長期的に必要な支出が補正予算に計上されることで、政策の継続性が不透明になり、企業は関連する研究開発や新事業に向けた大規模な投資に踏み切りにくくなっている。
■多年度予算編成の導入
補正予算を含む支出全体を適切にコントロールし、財政規律の向上につなげるためには、多年度予算編成の導入が不可欠である。複数年度にわたり予算を管理・運営することで、将来の財政支出に対する予見可能性を高めることができるほか、「債務残高の対GDP比を安定的に引き下げる」という目標の達成に向けた財政運営の道筋もつけやすくなる。補正予算は、多年度予算の編成時に想定していなかった経済ショックや大規模災害への対応などに限定して運用すべきである。
政府は、経済安全保障上、特に重要な危機管理投資と成長投資について、複数年度で財源を確保した上で、通常歳出とは別枠で管理する意向を示している。財政規律の向上に向けて、まずは、危機管理投資と成長投資について、民間資金のコミットメントを含めた多年度投資計画と政府負担の多年度予算支出枠を策定・設定するなど、複数年度にわたり予算を管理・運営する仕組みを導入し、その後、歳出全体へと広げていくことが肝要である。
■独立財政機関の設置
財政運営に対する信認を強化するためには、多年度予算編成の導入に加え、財政状況や予算の進捗を客観的に評価し、必要であれば財政運営の是正を提言する機関も必要である。わが国でも諸外国の事例を参考に、こうした機能を担う「独立財政機関(IFI)」の具体化を進めるべきである。
危機管理投資・成長投資に関する投資計画の進捗・成果の評価を行う第3者委員会を設けることや、経済財政諮問会議において、債務の持続可能性を分析し、多年度予算編成における次年度以降の予算のあり方を提言することなどは、「独立財政機関」が担う機能の先取りとなる。このような取り組みを政府自らが進めることは、財政健全化への本気度を示すことになる。
「独立財政機関」の設置に当たっては、国会(立法府)への設置が提案されるケースが多いが、予算編成の権限が政府に集中しているわが国では、行政府の下に設置することも一案である。その場合、独立財政機関のトップは、公正性や中立性を確保する観点から、国会の承認人事とすることが望ましい。
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