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Economist Column No.2026-009

求められる給付付き税額控除の早期導入、事業所得の把握向上にも努めよ

2026年04月17日 立岡健二郎


■現状の情報をベースに早期導入を
社会保障国民会議において、給付付き税額控除の具体的な制度設計に関する議論が進められている。導入には正確な所得と資産の把握が課題とされているが、これを理由に導入に時間をかけるべきではない。筆者は現行の情報のもとでも制度の運用は一定程度可能であり、早期に導入に踏み切るべきと考える。そのうえで、中長期的に所得・資産の捕捉範囲を広げていくことが現実的な対応である。早期導入を求める理由は以下の2点である。
第一に、現状でも所得・資産に関する情報は相応に把握できており、制度の公平性は一定程度確保しうる。所得に関しては、給与を中心に高い精度で捕捉されており、マイナンバーとの紐づけも進んでいる。すでに同様の制度を導入している諸外国と比較して、把握状況が著しく劣っているわけではない。資産に関しては、金融資産の捕捉は不十分であるものの、不動産については相応に把握されており、この点も、諸外国と大きな違いはない。
第二に、国民にマイナンバー導入の真のメリットをいち早く享受してもらうことが何より重要と考えているためである。2016年にマイナンバー制度を導入した最大の目的は、真に支援が必要な人をはじめ、国民一人ひとりにきめ細かい支援を迅速に提供することにある。現状、確定申告や各種手続きにおいて利便性の向上を実感できる機会が増えてきたとはいえ、国民に寄り添った支援という点ではその潜在力が十分に発揮されているとは言い難い。給付付き税額控除は、その機能を具現化するための中核的な政策手段として位置づけられる。

■事業所得の捕捉向上も重要、参考になる韓国の事例
早期導入を実現したあとは、中長期的課題として所得・資産の捕捉範囲を広げていく必要がある。所得・資産の把握が不十分なままでは、過誤支給や不正受給が発生する、あるいは、対象者を勤労者などに限定せざるを得ない可能性がある。制度の公平性を保ちつつ、対象者の範囲をより広範に広げていくためにはこうした取り組みが不可欠である。
なかでも優先すべきは、利子所得と事業所得の把握である。まず、利子所得については、現状、源泉分離課税の対象とされ、その有無自体は把握されているものの、マイナンバーとの紐づけが十分でなく、個人単位での把握は困難である。これを可能にするには、預金口座への付番が必要になる。利子所得を個人別に把握できれば、預金の規模もある程度把握可能となり、例えば、所得は少ないが預金が多い層を支援対象から区別するといった運用も可能となる。
さらに、見逃されがちであるが、事業所得の把握向上も極めて重要である。わが国では、所得の種類(給与・事業・農業など)によって税務当局が把握できる割合に格差があるという、いわゆる「クロヨン問題」が長らく指摘されており、近年の研究でも根強く残っていることが示されている(立岡(2016)、Niizeki and Hamaaki(2021))。勤労者間で課税の公平性が担保されているかどうかは政府への信頼に関わる重要な問題であり、しっかりとした対応を講じることが求められる。
事業所得の把握向上という観点では、韓国の取り組みが示唆に富む。同国では、給付付き税額控除の導入をきっかけに、決済取引を正確に把握する取り組みが強化されてきた。B to Bでは取引情報の電子的把握(電子税金計算書)の範囲が段階的に拡充されているほか、B to Cでは電子決済のみならず、現金決済も電子的に把握するというユニークな仕組み(現金領収証制度)が導入された。これにより、個人事業主の申告行動が変化し、申告者数および申告額の増加につながったと指摘されている(Sung et al.(2017))。
韓国では、税務当局による情報把握の範囲が拡大するなかで、小規模事業者における事務負担の増加といった課題も指摘されており、わが国が乗り越えるべきハードルは少なくない。それでも、韓国のより公平な社会を実現するという強い姿勢や正確な所得把握に向けた粘り強い取り組みには学ぶべき点が多い。こうした事例も参考にしながら、わが国も、公平で効率的な制度に向けて所得・資産の把握向上に努めるべきである。

【参考文献】
・立岡健二郎 (2016)「事業所得の捕捉率を推計する ─給与所得と事業所得の間の捕捉率格差は残存─」、日本総合研究所『JRIレビュー』, Vol.5, No.35, pp.50-67.
(https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/8813.pdf)
・Niizeki, Takeshi and Junya Hamaaki (2021) “Do the Self-Employed Underreport Their Income? Evidence from Japanese Panel Data,” Cabinet Office, ESRI Discussion Paper Series, No.366.
・Sung, Myung Jae, Rajul Awasthi, Hyung Chul Lee (2017) ”Can Tax Incentives for Electronic Payments Reduce the Shadow Economy? : Korea’s Attempt to Reduce Underreporting in Retail Business,” World Bank, Policy Research Working Paper, No. 7963.


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