Economist Column No.2026-004
米・イラン戦闘停止を踏まえ、今後の原油価格をどうみるか ― 当面100ドル前後で推移、戦闘再開なら150ドルも ―
2026年04月10日 栂野裕貴
4月8日、米国がイランに対する攻撃を2週間停止する一方、イランはホルムズ海峡の封鎖を解除することを表明した。これを受けて、WTI原油先物価格は足元で1バレル90ドル台後半と、直近ピーク時を2割下回る水準まで下落した。今後の原油価格は標準シナリオで100ドル、リスクシナリオで150ドルと予想する。
■標準シナリオは原油価格100ドル
標準シナリオとして、原油価格が5月にかけて1バレル100ドル前後で高止まりし、その後緩やかに下落していくと予測する。これは、以下3点を前提としている。
第1に、5月までの戦争終結である。トランプ大統領は、5月中旬の米中首脳会談までに明確な戦果を挙げようと考えている。また、米・イスラエルの迎撃ミサイル能力がかなり消耗しているため、海軍・空軍力だけを用いた長期戦を遂行するのは困難とみられる。イランにも、制空権やミサイルなどの軍事能力を立て直すため、戦争を早く終わらせる誘因がある。
第2に、ホルムズ海峡の漸進的な正常化である。国際通貨基金(IMF)によると、4月5日時点で同海峡を通航している船舶は9隻と、昨年同時期の1割弱に過ぎない。標準シナリオでは、同海峡の石油輸送が正常化するペースはあくまで緩慢にとどまると想定している。そもそも、安全な通航が保障されているのは現時点で2週間に過ぎず、ホルムズ海峡沖で通航再開を待つ石油タンカーを除けば、各国の石油タンカーがこれから同海峡に向かい、湾岸産油国で石油を積み込み、再び同海峡を通過して消費国に向かうには、スケジュールがタイトである。また、戦闘再開による被弾リスクが拭えないなか、船舶保険料が当面高止まりすることも石油輸送を制約する可能性が高い。ホルムズ海峡の石油輸送が平時に戻るのは、戦争の完全終結や通航の安全が広く確認される6月以降になると想定している。
第3に、中東の緩やかな石油増産である。これまでの戦闘によって、イランだけでなく、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の石油関連施設が多くの被害を受けてきた。標準シナリオでは、これ以上の被害拡大を見込んでいないものの、すでに破壊された設備・施設の再稼働や再建には相応の時間を要することを踏まえ、増産ペースはあくまで緩やかにとどまると予想している。加えて、石油輸送の正常化が遅れるなか、貯蔵設備のキャパシティに限りがあることも、運べる量以上の増産を制約する。一度減産に転じた油井において、急ピッチな増産を行うことは技術上難しいことも、生産ペースを下押しする。
■リスクシナリオは原油価格150ドル ― 戦闘再開によるホルムズ海峡の再封鎖、石油設備破壊が分岐点 ―
前述の標準シナリオに対して、次の2つの条件が揃えば、原油価格が150ドルに上昇するリスクシナリオが実現する恐れがある。
第1に、戦闘が再開し、ホルムズ海峡が再び封鎖されることである。米国・イランともに停戦条件に関する強硬姿勢を崩しておらず、停戦合意がまとまらない可能性も否定できない。加えて、この機にイランを弱体化させたいイスラエルが停戦交渉を妨害する恐れもある。交渉が破談となり、米・イスラエルが再攻撃を行えば、イランは再びホルムズ海峡の封鎖を宣言する可能性が高い。米国がイランに地上侵攻し、戦争が泥沼化することも十分に考えられる。戦争が長引けば長引くほど、世界の石油不足感が強まり、価格上昇圧力が一段と高まる。
第2に、中東の石油関連施設の被害が拡大することである。米・イスラエルがイランの石油輸出拠点(カーグ島)を攻撃したり、イランが湾岸産油国の石油施設を攻撃したりする事態に至れば、世界の石油供給は一段と下押しされる。イランは、自国への攻撃に対する報復として、ホルムズ海峡を迂回する代替ルートとされるサウジアラビアやUAEのパイプラインを破壊する可能性を示唆しており、その場合は石油輸送が一段と圧迫されることになる。
■戦争終結でも中東産原油のリスクは山積
なお、仮に標準シナリオが実現したとしても、中東からの石油調達に不安が残る状況は変わらない。イランの現体制は、革命防衛隊を中心とする保守強硬派の影響を強く受けており、反米・反イスラエルという政策スタンスを変える可能性は小さい。むしろ、今回の攻撃を受けて、イランが核開発の必要性を今まで以上に強く認識し、核兵器保有に向けた取り組みを加速させる可能性がある。イスラエル側も、今秋の総選挙に向けたアピールとして、ネタニヤフ首相がイラン再攻撃を選択するシナリオも考えられる。
さらに、2003年のイラク戦争後のように、イラン国内で内戦が生じ、事実上の無政府状態になるリスクも警戒すべきである。ホルムズ海峡の管理に責任を負う主体が不明瞭になれば、石油輸送上のリスクが燻り続けることになる(栂野[2026b])。
以上を踏まえると、わが国政府・企業には、中東以外の国からの代替調達や省エネと再生可能エネルギーの導入拡大による供給ショックへの耐性強化を進めていくことが引き続き求められる(栂野[2026a])。
<参考文献>
栂野裕貴[2026a].「米・イスラエルによるイラン攻撃のわが国への影響と今後求められる対応
」日本総合研究所、Research Eye、No.2025-143(2026 年3月2日)栂野裕貴[2026b].「イラン情勢を踏まえ、今後の原油価格をどうみるか
」日本総合研究所、Economist Column、No.2025-077(2026年3月5日)※本資料は、情報提供を目的に作成されたものであり、何らかの取引を誘引することを目的としたものではありません。本資料は、作成日時点で弊社が一般に信頼出来ると思われる資料に基づいて作成されたものですが、情報の正確性・完全性を保証するものではありません。また、情報の内容は、経済情勢等の変化により変更されることがあります。本資料の情報に基づき起因してご閲覧者様及び第三者に損害が発生したとしても執筆者、執筆にあたっての取材先及び弊社は一切責任を負わないものとします。

