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Economist Column No.2025-077

イラン情勢を踏まえ、今後の原油価格をどうみるか

2026年03月05日 栂野裕貴


中東情勢の緊迫化を受けて、原油価格が上昇している。WTI原油先物価格は足元で1バレル70ドル台後半と、攻撃前に比べて1割上回る水準で推移している。今後の原油価格は標準シナリオで80ドル、リスクシナリオで120ドルと予想する。

■標準シナリオは原油価格80ドル
標準シナリオとして、原油価格が今後80ドル/バレルに上昇すると予測する。これは、以下3点を前提としている。
第1に、紛争が続く期間である。トランプ米大統領は、イラン攻撃直後に、事態は4週間程度で収束すると発言した。この発言を踏まえ、今回の紛争が今後4週間で(3月中に)落ち着くと想定している。
第2に、ホルムズ海峡の動向である。現在、ホルムズ海峡はイラン当局によって封鎖が宣言されており、多くの船舶が同海峡の通航を回避するなど、「事実上の封鎖」状態にある。サウジアラビア国内のパイプラインなど、ホルムズ海峡を通らない代替輸送のルートも存在するものの、その輸送能力は同海峡の1~2割程度に過ぎず、石油輸送が強く制約される状況に変わりはない。標準シナリオでは、今後も「事実上の封鎖」が続くと想定している。
第3に、中東産油国の石油関連施設である。米国・イスラエルは、戦後の石油生産拡大も見据え、イランの石油関連施設を本格的に破壊しないと予想される。加えて、イランが報復攻撃として、米軍が駐留するサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)の石油施設をこれ以上攻撃しないと想定する。

■リスクシナリオは原油価格120ドル ― 紛争長期化、ホルムズ海峡の本格封鎖、石油施設破壊が分岐点 ―
前述の標準シナリオに対して、次の3つの条件が揃えば、原油価格が120ドルに上昇するリスクシナリオが実現する恐れがある。
第1に、紛争が長期化することである。IEA(国際エネルギー機関)に加盟する多くの先進国は、石油備蓄を90日分以上確保している。こうしたバッファの存在が、ホルムズ海峡封鎖による石油輸送の停滞を「フロー上の危機」にとどめ、深刻な石油不足という「ストック上の危機」に至ることを防いでいる。しかし、仮に紛争が長引き、中東産石油が届かないなかで各国の備蓄が枯渇するとの懸念が強まれば、価格上昇圧力は大きく高まる。
第2に、ホルムズ海峡が「事実上の封鎖」を超えて「本格的に封鎖」されることである。たとえば、イラン当局が同海峡に海上機雷を敷設したり、湾内に停泊する船舶に対し無差別に攻撃する事態に至れば、石油輸送に関する供給制約は一段と強まる。「事実上の封鎖」であれば、イラン現体制の崩壊や紛争の終結に伴って、ホルムズ海峡に関する供給制約は比較的早期に解消される一方、本格的な封鎖が生じる場合、機雷の掃海に時間がかかるほか、撃沈された船舶内に積まれていた原油は元に戻らないため、供給面への悪影響が増すことになる。
第3に、中東産油国の石油関連施設が破壊されることである。米国・イスラエルがイランのさらなる弱体化を狙って施設を空爆する一方、イラン側も周辺産油国の石油設備を次々と攻撃する事態に至れば、世界の石油供給は一段と下押しされる。一度破壊された設備の再建には時間がかかるため、供給制約は長引く。

■楽観的な市場の修正に加え、中長期的な政治・経済リスクにも要警戒
足元の原油価格は、上昇しているとはいえ、100 ドルを超える水準には至っていない。これまでの議論を踏まえると、その背景として、①金融市場参加者が今次紛争の長期化を織り込んでおらず、ホルムズ海峡封鎖を「ストック上の危機」とまでは認識していないこと、②ホルムズ海峡があくまで「事実上の封鎖」にとどまり、「本格的な封鎖」の可能性までは織り込んでいないこと、③中東産油国の生産設備破壊をそれほど想定していないこと、が考えられる。裏を返せば、これら3点の期待が覆れば、事態はリスクシナリオに沿って動き、原油価格が急騰する可能性がある。
加えて、今次紛争が早期終結した場合でも政治・経済面のリスクが残存することに注意を要する。イランの戦闘能力(弾道ミサイルやドローンなど)が尽きたり、イラン革命防衛隊内で軍事クーデターが発生し体制転換が生じたりする場合、紛争が終結したとしても、イスラエルとイランの間の確執は残るため、中東地域の不安定化要因が消えるわけではない。また、2003 年のイラク戦争後のように、イラン国内で内戦が生じ、事実上の無政府状態になるリスクも警戒すべきである。ホルムズ海峡の管理に責任を負う主体が不明瞭になれば、中長期的に石油輸送上のリスクが燻り続けることになる。
以上を踏まえると、わが国政府・企業には、中東からの石油輸入制約の長期化を想定しつつ、供給ショックへの耐性を高める取り組みを進めていくことが求められる(栂野[2026])。

<参考文献>
栂野裕貴[2026].「米・イスラエルによるイラン攻撃のわが国への影響と今後求められる対応
日本総合研究所、Research Eye、No.2025-143(2026 年3月2日)


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