Economist Column No.2025-057
今夏を振り返り来夏に「適応」する
2025年11月21日 新美陽大
2025年の天候を振り返ると、記録的な暑さと少雨、そして大雨が各地で観測される異例の年となった。夏の暑さをもたらす太平洋高気圧が早い時期から勢力を強め、平年より梅雨明けが大幅に早まったことに加え、9月に入っても太平洋高気圧に広く覆われる日が続いたことで、暑さが長く続いたためである。
■今夏の暑さと少雨、大雨
まず、今年の夏季(6~8月)の天候を、様々な記録から振り返る。平均気温は平年比+2.36℃となり、2023・24年と続く史上最高記録を、3年連続で更新した。地点別に見ても、全国の気象台等の観測地点の86%で平均気温が歴代1位を記録した。
また、以前は最も暑い時期に一部の地域のみで観測された猛暑日(日最高気温35℃以上)が、全国のあらゆる地域で、長期間にわたって観測され、年間の延べ猛暑日観測地点数は最多記録を更新した。さらに、日最高気温についても、8月5日に伊勢崎で観測された41.8℃が国内最高記録を塗り替え、全国13都府県にわたる延べ30地点で日最高気温40℃以上を観測した。
また、暑さだけでなく、雨の降り方が極端であったことも今夏の特徴である。高気圧に覆われる期間が長かったため、全国的には降水量が平年より少ない地域が多くなった。とくに、北陸地方を中心とした日本海側では7月の降水量が平年の2割にも達せず、記録的な少雨となった地域もあった。
その一方で、局地的な大雨も多く発生した。8月前半には、一時的に勢力を弱めた太平洋高気圧の縁を回って暖かく湿った空気が流れ込んだことで、北陸地方や九州地方は大雨に見舞われた。気象庁が、数年に一度程度しか発生しないような短時間の大雨が発生した際に発表する「記録的短時間大雨情報」は、今年は10月末までに160回発表されている。この記録は、2022年の最多記録(161回)に次ぐ回数であり、夏季の発表回数が7割以上を占めるという特徴も2022年と共通している。
■今後求められる「適応策」
今夏の猛暑や少雨、大雨などの激しい気象現象は、私たちの社会生活に様々な影響を及ぼす。現在の技術では、激しい気象現象を正確に予測することは困難であるが、近年の研究からは、気候変動によって以前に比べて起こりやすい状態となっていることが示唆されている。このような背景から、気候変動の影響にあらかじめ備えておく「適応策」の重要性が高まっている。
顕著かつ長期間に及んだ暑さにより、今年の熱中症による死亡者や救急搬送者数はいずれも過去最多となる見込みである。今年6月には改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症対策が強化されている。屋外や、空調が難しい締め切った室内での作業が多い業種は、WBGT値(暑さ指数)の測定や熱中症警戒アラートを活用し、あらかじめ熱中症リスクを把握して予防対策を講じることが求められる。具体的には、涼しい休憩場所を設けるなどの作業環境への対策や、暑さを避けるために作業の期間や時間帯を変更するなどの管理面での対策が挙げられる。従来からこうした対策は進められているが、熱中症の被害を抑えられておらず、これまで以上に対策を強化する必要がある。
また、暑さや少雨は、農作物の生育を妨げる要因にもなる。地域における渇水対策を強化するとともに、気候変動に応じた栽培方法の変更や、高温等への耐性を持つ新たな品種の導入も有効だろう。併せて、農業従事者は屋外での作業が多いため、熱中症対策も必須である。
一方、大雨は、暑さなどに比べると局所的な現象ながら、ひとたび発生すると瞬く間に、浸水や土砂崩れなどにより広範かつ甚大な損失を発生させる。ハザードマップを活用した水害リスクの把握から、BCP(事業継続計画)の策定、電気設備の高所移設や防水・止水設備の設置など、平時から対策を進めておく必要がある。また、将来的な水害リスクは気候変動によって変化するため、最新のリスク評価を踏まえ、対策の見直しを継続していくことも重要である。加えて、近年は大雨による被害が様々な地域で発生していることを考慮すれば、自社が被る直接的な影響だけでなく、取引先などサプライチェーンに被害が発生した際の間接的な影響についても、あらかじめ検討しておくべきだろう。
WMO(世界気象機関)は2024年の温室効果ガス濃度が過去最高値を上回ったと発表した。ブラジルで開催中のCOP30では、国際的な気候変動対策が議論されている。今後も、地球温暖化による気候変動が進めば、激しい気象現象の発生確率が高まることが想定される。来る夏に向けては、今夏をもう一度振り返り、将来的なリスクの高まりも踏まえて、それぞれの職場や事業環境に応じた「適応策」を講じておくことが求められる。
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