Economist Column No.2025-043
金融行政のポイントとなる金融庁の組織再編
2025年09月16日 谷口栄治
金融庁は、本年8月29日、「2025事務年度金融行政方針」、「令和8(2026)年度税制改正要望」、「令和8年度 予算、機構・定員要求」を公表した。これは、金融庁として今後推進していく政策の方向性、ならびにそれを実現するために必要となる税制改正や予算措置、組織再編等に関する要望を提示したものである。本年度の金融行政方針では、①地域金融力強化プランの策定、②人的資本開示・NISAの一層の充実、③暗号資産・ステーブルコインに関する施策の推進、④協同組織金融機関における適切な経営管理及び業務運営の確保、⑤保険業界の信頼の回復と健全な発展に向けた対応、⑥組織体制の不断の見直しと金融行政の進化、といった項目が重要施策として採り上げられている。
そのなかで注目されるのが、金融庁の組織再編である。具体的には、既存の「総合政策局」と「監督局」を、「銀行・証券監督局(仮称)」と「資産運用・保険監督局(仮称)」の2監督局体制に再編する計画であり、金融庁における大規模な組織再編という点では、2018年の「企画市場局」、「総合政策局」の創設以来となる。資産運用業や保険業では、「資産運用立国」の推進に伴う資産運用業の育成やアセットオーナーシップ改革、保険業界における不祥事を踏まえた信頼回復等が求められており、同業態にフォーカスする「資産運用・保険監督局」の設置が必要とされた。また、資金移動業者や暗号資産事業者といったFinTech事業者も、同局が監督することとなっている。一方、銀行業と証券業については、グループベースでの監督強化を図るため、既存の枠組みを活用しつつ、「銀行・証券監督局」を設置することとされた。
こうした組織再編の背景には、金融ビジネスや金融リスクの多様化・複雑化・高度化に伴い、金融当局による監督機能の重要性が高まっていることがある。例えば、金融機関の事業領域の拡大に伴い、信用リスクや市場リスクといった金融リスクにとどまらず、サイバーリスクやシステムリスク、不祥事や金融犯罪等に起因するレピュテーションリスクなど、金融機関の経営リスクも広範となっている。また、クラウド、ブロックチェーン、人工知能(AI)といったデジタル技術の進歩が、新たな金融リスクの温床にもなっており、金融当局が対応するべき監督領域も年々拡大している。こうした状況を踏まえれば、金融庁における監督機能強化を企図した組織再編は、時宜を得た取り組みと評価できよう。
一方、今回の組織再編は目的ではなく、あくまで手段に過ぎない。金融当局による監督機能を強化するためには、多様な金融リスクに関する知識やノウハウを持つ人材を採用・育成し、組織化するといった人材戦略や体制整備等を繰り返し進めていく必要がある。同時に、金融当局内にとどまらず、関係省庁や民間の専門家、業界団体等と、知見や経験、問題意識の共有等を図り、わが国全体としての対応力を高めていくことが求められる。さらに、監督対象となる金融機関サイドも、今回の組織再編の趣旨を十分理解し、監督当局とコミュニケーションを深め、信頼関係を構築していく必要があるだろう。
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