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Economist Column No.2025-033

トランプ関税で再び存在感が高まるBRICS

2025年07月14日 若林厚仁


■トランプ政権との対立姿勢を示すBRICS
7月6日、BRICSはブラジル・リオデジャネイロで開催した首脳会議にて、「一方的な関税措置などに対する深刻な懸念を表明する」と、暗にトランプ関税を批判する首脳宣言を発表した。これを受けて、トランプ米大統領はBRICSの反米政策に同調する国に10%の追加関税を課すと発言したほか、9日には、ブラジル前大統領の起訴などを理由にブラジルに50%の相互関税を課すと表明した。こうした一連の措置に対し、ブラジルのルラ大統領は報復措置も辞さない構えを示しているほか、インドのモディ首相もトランプ政権の自動車と自動車部品への関税に対抗して、米国からの輸入品に報復関税を課す方針を示している。
関税は、貿易収支の不均衡改善や自国産業の保護が本来の目的であるが、トランプ政権が関税を交渉カードに過剰な要求を繰り返しており、世界各国が米国との関係性を再考しつつある。こうしたなか、グローバルサウスの声を代弁する連合体としてBRICSの存在感が高まっている。

■米国なしの経済圏構成は可能か
BRICSは2001年、米投資銀行のエコノミストであったジム・オニール氏が、ブラジル、ロシア、インド、中国の総称として「BRICs」を用いたことが始まりである。2009年に4カ国が第1回首脳会議を開催した後、2011年に南アフリカ共和国が参加して「BRICS」となり、2024年にイラン、エジプト、UAE、エチオピアの4カ国、2025年にインドネシアが参加して、現在10カ国に拡大している。また、準加盟国に相当する「パートナー国」として、タイやマレーシア、ベトナムなどの10カ国も参加している。BRICS各国の立ち位置や米国との距離感は様々ながら、経済成長余地の大きいBRICS間で貿易を活性化し、米国への依存度を下げていくのは選択肢の一つであり、実際、中国は大豆やトウモロコシの調達先を米国からブラジルに急速にシフトしている。
ここで、BRICSの農林水産業・製造業が米国市場にどの程度依存しているか、OECDが公表する付加価値貿易(TiVA)データベースを用いて確認してみる。TiVAでは、貿易における各国の貢献度(付加価値)を推計しており、米国の最終需要に対するBRICSの農林水産業・製造業の貢献度を付加価値として確認することができる。BRICSのなかでも経済規模の大きい6カ国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ、インドネシア)の農林水産業・製造業が2020年に生み出した付加価値を集計すると、総額は6.9兆ドルで、うち自国内で消費された額は5.6兆ドル、米国で消費された額は0.3兆ドルとなっている。米国消費額は、6カ国における農林水産業・製造業の付加価値総額の4.5%、輸出付加価値額の23.8%を占めており、名目GDP対比では1.4%となる。単純に考えると、もし農林水産業・製造業が米国市場に全く頼らない場合、BRICS6カ国の名目GDPは▲1.4%減少することになる。これは高い成長率が続くBRICS諸国であれば許容できない水準ではない。もちろん輸出の減少は所得減や設備投資の縮小を招き、自国通貨安等を通じて国際金融取引にも大きな影響を及ぼすので、インパクトはこれよりも遥かに大きい。ただ、財の米国向け輸出だけを考えると、米国なしでは完全に持続不可能という訳でもなさそうである。中長期的にBRICS間で貿易を活性化して米国への依存度を下げることは、取り得る選択肢の一つであると思われる。

■一枚岩とはいかないBRICS
ただ、BRICSも一枚岩ではない。グローバルサウスの声を代弁し、新たな国際秩序の構築を目指す目論見がある一方、中国・ロシアの権威主義に対する警戒感もあり、参加国の米国との距離感は様々である。インドは経済安全保障の観点から中国と微妙な関係にある一方で、QUAD等を通じて西側諸国と連携している。ブラジルも東側の権威主義とは距離を置く。BRICSに参加する国が増えて陣営が拡大するにつれ、参加国間の調整も難しくなっている。BRICSは政治的な集まりというより、経済的実利に基づくグループであり、米国が自国第一主義を掲げるなか、是々非々ベースでの協力関係を今後も進めていくと思われる。



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