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Economist Column No.2025-031

さくらレポートからみる関税影響

2025年07月11日 松田健太郎


■関税影響は限定的
7月10日に日銀が公表した「地域経済報告(さくらレポート)」によると、景気の総括判断は北海道から九州まで9地域のいずれも前回から据え置きとなった。全体として、一部に弱めの動きがみられるものの、景気は「緩やかな持ち直し」「緩やかな回復」「持ち直し」が続いているとの判断が示されている。4月以降、米国トランプ政権との関税交渉が難航するなかでも、各地域では設備投資や賃上げなどの前向きな動きが継続している。総じてみれば、関税は未だ企業活動に大きな影響を与えるには至っていない。

■逆風下でも一部に前向きな動き
各国の通商政策の影響に関して企業の報告をみると、輸出・生産の先行きに対する警戒感は確実に強まっているものの、現時点ですでに減少が生じているといったものは一部にとどまっている。「米国における取引先の投資スタンスが後退し、当社製品への需要が鈍化しており、売上が下押しされている(生産用機械)」など、わが国が強みを持つ資本財輸出が影響を受けている声もあるが、他方で世界的な需要は底堅いとの報告や、競争優位性を有するため価格転嫁を行っても輸出数量への影響は限られる、といった報告も確認できる。
設備投資においても、不確実性が急速に高まるなかでも悲観一辺倒というわけではない。例えば、不要不急の設備投資の見直しや能力増強投資を後ろ倒しにするといった先行きへの警戒を強めるコメントがみられる一方、成長分野への投資方針は継続する、省人化投資やソフトウェア投資への積極的な投資スタンスを維持するなど、ポジティブなコメントも幾分みられている。具体的な成長分野への投資として、先端半導体や半導体製造装置、AI(発注システムの導入、検査工程の無人化)、脱炭素などが挙げられており、このような中長期的な成長や課題解決を目的とした投資計画は維持される傾向にある。
賃上げ機運の腰折れも現状はみられていない。今後の業績下振れへの警戒から冬季賞与の減額に言及する企業や来年度の継続的な賃上げに対して懸念する声もあるが、全般的に人手不足の深刻化やそれに伴う人材獲得競争の激化を指摘する声が多数を占めている。今年度に関しては、ベアや賞与支給引き上げなどから高水準の賃上げが続いている。

■利上げ後ずれも方向感は変わらず
このような景気の現状や先行きの下支え材料から判断すると、金融政策が正常化されるという方向性は現時点で不変である。先行き、わが国景気の減速は避けられないが、投資や賃上げなど企業の前向きな行動の継続が、日銀の「次の一手は利上げ」であることをつなぎとめる。
ただし、利上げ再開の時期は幾分後ずれする可能性が高い。7月の金融政策決定会合は7月30日、31日と奇しくも米国との通商交渉の期限の目前であり、利上げの可能性はほぼないと考えられる。さらに、同会合で公表される「経済・物価情勢の展望」に関税の影響を明確には織り込めないため、おそらく上方修正される物価見通しにも不確実性がつきまとい、7月の見通し修正から9月に利上げ再開といったシナリオも考えにくい。
通商交渉の結果は予断を許さないものの、相互関税の上乗せ分の発動は避けられ、10%の税率や品目別関税が残るという弊社のメインシナリオの下で、利上げ再開は年明け以降になるとみる。この理由として、当面の関税の影響がある程度明確化してくるとともに、①来年の春闘に向けた賃上げの機運が崩れていないこと、②雇用情勢が底堅さを維持していること、③企業の価格転嫁などから基調的な物価上昇が継続していること、等を確認できることが挙げられる。



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