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Economist Column No.2025-015

AIやロボットは人口減対策の「切り札」となるか?

2025年06月09日 福田直之


厚生労働省が発表した2024年の人口動態統計で、出生数は統計のある1899年以降で初めて70万人を割った。国立社会保障・人口問題研究所によると、日本の人口は2008年をピークに減少に転じ、2070年には8,700万人まで減少する推計だ。特に深刻なのは生産年齢人口の減少で、労働力不足への対応策として人工知能(AI)・ロボットの活用が注目されている。ただ、AI・ロボットは所得税や社会保険料を納めず、消費もしないので、人口減による経済・財政に関する問題の穴埋めまではしてくれない。これらを人口減対策の「切り札」とするには、税制と社会保障システムの改革も同時に必要になってくる。

■技術的可能性と経済的課題
AI・ロボットの導入は労働力不足を補う有力な手段の一つである。製造業では産業用ロボットが24時間稼働し、介護分野でも支援ロボットが現場の負担を軽減している。2027年には現在のビジネスタスクの約4割が自動化されるとの予測もある(注1)。単純計算すれば、労働力人口が4割減少しても経済規模を維持できることになる。
しかし、労働力人口が4割減少した世の中で、AI・ロボットは労働力の不足を埋めることができても、労働者のように所得税や社会保険料を納めるわけではないため、財政問題までは解決できない。また、AI・ロボットは生産を担えても、消費で経済を活性化する役割は持ちえない。

■解決策とそのハードル
一つの解決策として、ロボット導入で向上した生産性を残った労働者の賃金上昇に充てることができるかもしれない。10人で行っていた仕事を5人とロボットで行い、その5人の賃金を2倍にすれば、理論上は単純計算で賃金総額も税収も維持される。我が国にも自動化を進めて高所得を実現しているメーカーは存在する。
しかし、大きなハードルがある。第一に、グローバル競争のなかで人件費を大幅に上昇させることは企業の競争力を損なう恐れがある。第二に、すべての労働者が高度なスキルを身につけられるわけではなく、スキル格差による二極化が進む可能性が高い。また、株主資本主義が浸透した昨今、生産性向上の果実を労働者に還元するよりも株主配当に回す圧力は強い。
マイクロソフト共同創業者のビル・ゲイツ氏らが提唱する「ロボット税」はもう一つの解決策である(注2)。ロボット導入により削減された人件費相当額に課税し、それを財源として社会保障や教育を維持する仕組みだ。ただし、技術革新を阻害する可能性や、グローバル化した経済における企業の拠点移転リスクもある。

■真の「切り札」に向けて
以上をまとめると、AI・ロボットは技術的には人口減少による労働力不足を補う「切り札」となりうる。しかし、それが真の解決策となるためには、税制と社会保障システムの抜本的な改革と、政策支援が不可欠である。
具体的には、現在の税と社会保険の収入は所得税も社会保険料もすべて「人が働いて得る給与」を基盤としているが、ロボット税やデジタル課税など、経済活動に課税する税制が求められる。縮小する消費を補うための政府支出の拡大、輸出促進、外国人観光客誘致など、多角的なアプローチも必要である。
人口減少は避けられない現実である。重要なのは、AI・ロボットを単なる人間の代替として捉えるのではなく、人間とロボットが共生する新しい社会のあり方を構想することだ。

(注1)World Economic Forum [2023]. https://www3.weforum.org/docs/WEF_Future_of_Jobs_2023.pdf
(注2)World Economic Forum [2017]. https://www.weforum.org/stories/2017/02/bill-gates-this-is-why-we-should-tax-robots/



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