Business & Economic Review 2012年3月号
【特集 中国経済成長モデルの脆弱性】
中国の地方財政が抱える脆弱性-不動産への高依存と「地方融資平台」方式の弊害
2012年02月24日 佐野淳也
要約
- 中国における地方財政の財源は中央と同様、①財政収入、②政府性基金収入、③予算外資金収入という三つから構成される。地方政府は、土地使用権の売却を通じて、莫大な政府系基金収入を確保している。地方政府が強引な手法を用いてでも土地の早期収用を図る背景には、収入面で土地の売却収入に大きく依存していることがある。
- 加えて、不動産(=建物)税や印紙税(証券取引を除く)といった六つの不動産関連の税目の合計は、増値税、企業所得税、営業税に次いで4番目に大きい。これらの不動産関連税収は地方財政に配分されるため、地方政府にとって、不動産取引件数の増加や価格の上昇は収入増加に直結し、望ましいものといえよう。土地売却収入と不動産関連税収の合計だけで、地方財政の全収入の約半分に達する。
- 経済成長が幹部の人事面での高評価につながることもあり、総じて強い投資拡大意欲を有している。しかしながら、地方政府は財政収支均衡予算の編成を求められており、債券発行を原則的に禁止される状況にある。そこで、地方政府は制度的な制約をクリアして銀行融資や社債発行で資金調達を可能にするために「地方融資平台」を設立した。とりわけ、2008年11月に公表された4兆元の景気刺激策は、「地方融資平台」による資金調達を加速させた。
- 「 地方融資平台」は、インフラ建設や景気浮揚に貢献した半面、経済の高成長や不動産価格の持続的上昇を前提条件としており、不況下では地方財政に悪影響をもたらすおそれがある。中央を含む政府の債務残高の対GDP比は、一般的に危険水準とされる60%を下回る水準であり、現時点では制御可能な範囲と判断できるものの、「地方融資平台」の業務内容や資金調達過程における不透明さが債務不履行への懸念を増幅させている。
- 中央政府による厳しい制約の下、地方債の試験的発行が四つの地域で実施された。これらの地域では順調に発行され、地方政府の資金調達の透明性向上に向けた第1歩として評価されるが、想定される金利の高さや償還能力を勘案すると、他地域でも十分な資金を調達できるとは限らない。地方債発行以外にも、中央からの財政移転や税収増加策にも注力する必要があり、その過程には、幾つもの障壁が存在し、決して平坦な道のりではないであろう。しかし、胡錦濤政権が目指す経済発展方式の転換のためには、地方財政の収入基盤を強化していく地道な取り組みが不可欠であり、今後の動向が注目される。