Business & Economic Review 2009年3月号
【STUDIES】
アメリカ金融危機におけるGSEの経営悪化と将来像を巡る議論について
2009年02月25日 調査部 理事 翁百合
要約
- アメリカでは、金融危機によって二つの住宅金融を支援する政府支援企業(GSE)が経営悪化に陥り、公的資金が注入されて救済されるに至った。両社は、アメリカの住宅金融の証券化を推進し、アメリカ国民の住宅取得に大きな役割を果たしてきた。しかし一方で、以前から証券化支援事業と並行して実施している資金運用事業に傾注して、ポートフォリオを拡大したり、粉飾決算事件を引き起こしたりするなど、マネージメントや監督体制の不備を指摘されてきた。
- 2008年夏の公的資金注入によるGSE2社の救済は、同社の社債やMBS(資産担保証券)の規模が極めて大きくなっており、しかもグローバルに投資家が広がっていることから、やむを得ない措置であったと考えられる。しかし、2社の問題点が従来から指摘されていながら、抜本的な改革を怠ってきたことについての批判は多い。そうした批判に基づいて、危機の期間を経た後の将来像についても、様々な議論が出ており、まだ収束をみていない。
- 両社に向けられた批判は、相互に関連する三つの点にある。第1は、監督体制の不備である。GSE 2社に対する自己資本比率規制は緩やかなものであったし、監督体制もその金融市場におけるプレゼンスと比較すると十分なものではなく、抜本的な見直しが先送りされていた。第2は、住宅金融の証券化事業に関しては、2社の寡占状況となっており、金融市場における規模が極めて大きいものとなっていたことである、この結果、2社の経営悪化は構造的にシステミックリスクを招きかねない状況になっていた。第3は、そもそも上場している民間企業に対して、政府が暗黙の形でメリットを与えるというGSEという形態自体に、問題があったということである。GSEという形態は、収益が上がっている局面では、株主のメリットになる一方、赤字が累積し経営が悪化すると結果的に国民の税金を投入する非対称な存在だと予想されたため、経営者のモラルハザードを招き、経営を悪化させるという構造的な問題を抱えていた。
- こうした批判を背景に、GSEの将来像については、完全民営化、清算といった方向から、公益企業化、または完全な国営企業化(いわばジニーメイ型)まで、論者によって大きく方向が分かれている。ただし、完全民営化、清算といった形で、GSEを通じた住宅金融支援を政府として廃止するとしても、債券に対する保険制度の充実など、その他の方法で住宅金融支援を政府が行うべきだという議論が多い。それは、住宅金融は、超長期ローンであり、信用リスクが低い利用者に対しては、民間の担い手だけでは全てのリスクをテイクすることができない、という考え方が背景にある。そのうえで、住宅金融に対する政府関与は、こうした社会政策的意義だけでなく、金融システム全体の健全性を維持するという観点から、その手法を工夫することが改めて重要と認識されたからである。
- わが国の住宅金融の証券化を支援している独立行政法人住宅金融支援機構とアメリカのGSEは、その組織形態、発行する債券の性格、など多くの差異があるため、これを同列に論じることは避けるべきである。現在、わが国の証券化商品市場は、金融市場の混乱を受けて大きな打撃を受けているが、住宅金融支援機構はこのような局面においても住宅金融を支援できるようその役割を十全に果たす必要がある。一方で、アメリカのGSEがなぜ経営悪化に陥ったのか、という点をよく検証し、中長期的な観点から、住宅金融支援のあり方.どのような政府関与の手法が望ましいのか、どのような組織形態が望ましいのか.についても考えていく必要がある。