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Business & Economic Review 1997年11月号

【PERSPECTIVES】
既婚女性の就業行動に関する考察

1997年10月25日 飛田英子


1.はじめに

わが国では、パートタイムで働く主婦に対して、専業主婦と同様の様々な優遇政策が適用されており、このような優遇政策の存在が既婚女性の一層の社会進出に歯止めをかけているとの指摘がある。そこで本稿では、既婚女性のなかでフルタイムで就業する者とパートタイムで就業する者の就業構造を比較することにより、パートタイムで就業する者が、これらの優遇政策の恩恵を受けるために自分自身の労働供給をコントロールしている可能性について考察する(注1)。

本稿の具体的な構成は、以下の3ステップから成る。まず第1ステップでは、妻が専業主婦あるいはパートタイムで就業する主婦の家計に対する優遇政策を整理するとともに、これらの家計がフルタイムで働く主婦の家計に比べてどの程度優遇されているかを把握する(第2章)。次に第2ステップでは、1985、90、95年の都道府県別データを用いて、フルタイムおよびパートタイム就業率を説明するモデルを推計する。さらにその結果より、(1)パートタイム就業率の方が世帯主の所得変動に対して敏感に反応することを示し、パートタイム就業者が自分自身の労働供給をコントロールしている可能性があることを言及するとともに、(2)出生率が既婚女子全体の就業率に対してマイナスに働いていることを検証する(第3章)。最後に第3ステップでは、簡単なまとめを記すとともに、既婚女性の労働力活用に向けた政策提言を行う(第4章)。 なお、本稿では既婚女性の中でも20~34歳の若年層を分析の対象にしている。これは、(1)35歳以上の既婚女性の就業は、一般的に労働の需要サイドからみたハードルが若年層に比べて高い(例えば、求人件数の少なさ等)ため、供給サイドのみの分析では不十分である可能性が高い、(2)既婚女性の社会進出を制約するその他の大きな要因として一般に出産が指摘されるが、これは大概20~34歳の若年層に該当する、等による。

本稿では、専業主婦と同様の優遇政策の対象とならない就業者を「フルタイム」就業者、対象となる就業者を「パートタイム」就業者としている。もっとも、第3章のパネル分析では、データの制約上、「主に仕事」をしている就業者を「フルタイム」就業者、その他の就業者(「家事のほか仕事」等)を「パートタイム」就業者としている。

2.パートタイム就業者に対する優遇政策

妻がパートタイム就業者である世帯(専業主婦である世帯を含む)に対する代表的な優遇政策として、以下の3点が指摘される。

まず第1は、所得税および住民税における配偶者控除および配偶者特別控除である。すなわち、所得税を例にみると、妻の給与所得が年間103万円未満の場合、その妻は納税義務を免れることに加えて、夫の納税額の算出に際して配偶者控除(38万円)と配偶者特別控除(妻の収入に応じて38万円から段階的に逓減)の対象となる。さらに、妻が年間103万円以上の収入を得ており、配偶者控除の対象には該当しない場合でも、141万円未満までは配偶者特別控除(妻の収入に応じて段階的に逓減)が引き続き適用される(図表1)。これらの所得控除は、無職、あるいは所得の少ない妻に対する政府からの「見えざる補助金」と捉えることが可能であり、妻が相対的に高額の所得を有する共働き世帯との格差を生んでいる。

そこで、この「見えざる補助金」(以下、補助金)を含むベースでの妻の税引後所得を算出すると、妻の給与所得が少ないほど税制上は有利という結果が得られる。

図表2は、妻の給与所得(年額)と税引後の所得(補助金を含む、同じく年額)の関係を図示したものである。これをみると、税引後所得の動きは、給与所得の金額に応じて3つの部分に分けることが可能である。

第1は、給与所得が0円以上70万円未満についてである。この部分では、税引後の所得は76万円を起点に給与所得の増加に伴って増加している。なお、給与所得がまったくないにもかかわらず、税引後所得が76万円確保されるのは、補助金(配偶者控除38万円と配偶者特別控除38万円の合計)の存在によるものである。

第2は、給与所得が70万円以上141万円未満についてである。この部分では、給与所得の増加にもかかわらず、税引後所得はほぼ一定水準で推移している。

第3は給与所得が141万円以上についてである。この部分では、税引後所得は再び給与所得の増加とともに増加するようになる。 この税引後所得の動きに給与所得の動きを加え(45°線で図示)、両者の水準を比較してみると、給与所得が140万円未満までは税引後所得が給与所得を上回っているが、140万円以上になると税引後所得が下回っているおり、妻の所得が少ないほど税制上有利であるということが見て取れる。

この逆転現象は、所得税に適用される配偶者控除および配偶者特別控除に起因している。すなわち、妻の給与所得が少ない場合は、妻に対して税金がかからないことに加えて、配偶者控除と配偶者特別控除という補助金が加算されるため、税引後の妻の所得は実際の給与所得を上回ることになる。一方、妻の給与所得が多い場合には、妻に対して税金が課せられるとともに、配偶者控除と配偶者特別控除が適用されなくなるため、税引後所得は給与所得を下回ることになる。

第2は、被扶養配偶者(具体的には、サラリーマンの妻で年収130万円未満の者)の社会保険料免除である。例えば年金についてみると、わが国では20歳以上60歳未満の国民は全員が国民年金(基礎年金部分)の被保険者になることが義務づけられている。被保険者は共通の保険料を支払うことになっているが、このなかで会社員や公務員の妻は保険料の支払いが免除されている。すなわち、(1)自営業者やその妻等で構成される第1号被保険者は直接保険料として負担する一方、(2)サラリーマンや公務員等の第2号被保険者、(3)第2号被保険者の被扶養配偶者(年収130万円未満の配偶者)である第3号被保険者の分については、第2号被保険者が加入している被用者年金制度(サラリーマンの場合は厚生年金保険、公務員の場合は共済組合)が拠出金としてまとめて負担することになっている。この拠出金は第2号被保険者と事業主が折半で負担しているため、結果的には第3号被保険者の保険料を、第2号被保険者全員と事業主が肩代わりしていることになる(図表3)。このことを、フルタイムで働く主婦は第2号被保険者、パートタイムで働く主婦は第3号被保険者との観点から捉え直すならば、被扶養配偶者の保険料は、妻がフルタイムで働く世帯からパートタイムで働く世帯への所得移転を前提として成立している制度とみなすことが可能である。

第3は、企業により支払われる配偶者手当てである。配偶者手当ての対象は、所得税の配偶者控除適用の対象(すなわち、年間給与所得103万円未満)とほぼ同じであり、フルタイムとパートタイムの格差の一因となっている。ちなみに、人事院「民間給与の実態(平成8年度)」によると、家族手当を支給している企業は全体の91.9%と9割を超えており、平均支給金額は月17,604円である。

このように、妻がパートタイム就業者である家計は様々な恩恵を受けている。そこで、総務庁「家計調査」により、このような家計が、妻がフルタイム就業者である家計に比べてどのくらい優遇されているかを試算してみた。具体的には、「有業人員2人」、「世帯主は夫」、「妻が勤労者の世帯」の中で妻の勤め先収入が月8万円未満の世帯に関して、(1)直接税の配偶者控除および配偶者特別控除、(2)社会保険料の被扶養配偶者保険料免除、の2つが撤廃された場合の公的負担額(直接税と社会保障関係費の計)の増加分を算出してみた。

これによると、(1)夫の直接税の増加、(2)妻の所得に対する社会保険料の発生、により、年間の公的負担額は約23万円増加する結果となる。実収入に対する比率でみると(図表4)、優遇政策適用の場合は14.3%であった負担割合は、撤廃された場合には17.7%にまで上昇することになり、優遇政策の存在により実収入の3.4%に相当する部分の所得移転が行われていることになる。ちなみに、妻の月収が8万円以上の世帯の負担割合は15.9%であり、8万円未満の世帯に比べて負担感が強い状況にある。

さらに、企業による配偶者手当てを考慮すると、妻がフルタイマーである家計とパートタイマーである家計の格差はさらに税引後ベースで年間19万円程度拡大する見込みである。

3.パートタイム就業率およびフルタイム就業率のパネル分析

以上のように、わが国では妻がパートタイム就業者である家計に対して様々な優遇政策が存在しており、その結果、これらの家計は妻がフルタイム就業者の家計に比べて所得面の恩恵を享受している。そこで本章では、このような優遇政策の存在が既婚女性の労働供給に歯止めをかけているのではないかという観点から、85、90、95年の都道府県別データによるパネル分析を行う。 被説明変数および説明変数の解説、推計結果は以下の通りである。

1 被説明変数

被説明変数(図表5)は、フルタイム就業率とパートタイム就業率の2つである。分子は、各々フルタイム就業者数(20~34歳の有配偶女子のなかで、仕事を主とする就業者数)とパートタイム就業者数(同じく、その他の就業者数)、分母はともに20~34歳の有配偶女子人口である。

2 説明変数

イ 世帯主所得

説明変数(図表5)の第1は、世帯主所得(自然対数値)である。具体的には、20~40歳の男子の実質所得を採用している。ここで、男子の年齢を40歳までにしたのは、男子の平均初婚年齢が女子を2~4歳上回っていることを考慮したためである。また、実質化には消費者物価指数を用いたが、同指数の地域間格差を除去するために、地域差指数と都道府県庁別指数により95年の全国平均を100とするデータを新たに作成し、これを使用した。

ロ 出生率

説明変数の第2は、出生率(注2)である。通常、出生率を算出する場合には分子に出生数、分母に既婚・未婚を問わない女子人口を用いるが、本稿では既婚女性の就業構造を対象にしているので、分母に未婚者を含めたベースでは出生率の影響を適正に評価しない可能性がある。このため、ここでは出生率算出の分子には母の年齢が20~34歳の出生数、分母には20~34歳の有配偶女子人口を採用している(わが国では未婚者による出産比率が低いことを勘案すると、むしろ分母に有配偶女子人口を用いた方が適切であると判断することも可能である)。

ハ 学歴

説明変数の第3は学歴であり、短大・高専、大学・大学院の卒業者比率を採用している。本来なら、有配偶女子についてのみの同比率を使用すべきではあるが、既婚・未婚別のデータが入手できなかったため、両者を併せたベースでの比率を代用している。さらに、使用するデータ・ソースは、被説明変数である就業率に合わせて総務庁「国勢調査」にすべきであるが、「国勢調査」の95年調査には教育に関する調査がないため、同じく総務庁の「就業構造基本調査」のデータを使用した(ただし、調査年は82、87、92年であり、被説明変数である就業率に対して3年のラグを設定することになる)。

3 推計結果

推計結果は、図表6の通りである。

イ 世帯主所得

まず、世帯主所得についてみると、フルタイム就業率に対してはほとんど説明力を持たない一方、パートタイム就業率に対しては5%水準で有意である。

パラメーターの符号は両者ともマイナスである。このことは、世帯主の所得が低い世帯ほど妻の就業率が高くなるという「ダグラス=有沢の法則」(注3)に沿う結果となっている。

パラメーターの絶対値を比較すると、フルタイムの1.22に対してパートタイムは6.96と約5.7倍に達している。このことは、パートタイム就業者の方が世帯主の所得変動に対して敏感に反応することを示しており、世帯主の所得を世帯収入と捉え直すと、パートタイム就業者は世帯収入の変動に応じて労働供給をコントロールしている可能性が高いと解釈することができる。

ロ 出生率

次に、出生率についてみると、フルタイムに対しては1%水準で有意、パートタイムに対しては5%水準で有意であり、両者に対して高い説明力を持っている。

もっとも、パラメーターの符号についてみると、フルタイムがマイナス、パートタイムがプラスであり、出生率は就業形態別には正反対の影響を及ぼす結果となっている。このことは、フルタイム就業者は出産を犠牲にして働く一方、パートタイム就業者は出産・子育てにかかる費用を補うために働く傾向が強いことを示しているものと思われる。換言すると、出産と就業の関係は、フルタイム就業者にとっては代替関係、パートタイム就業者にとっては補完関係にあるといえよう。

ちなみに、フルタイム・パートタイムを合わせた既婚女子全体の就業率を被説明変数として推計してみると、出生率は5%水準で有意に負である。このことから、出生率自体は既婚女性の社会参加に対してマイナスに働くことが分かる。

ハ 学歴

最後に、学歴についてみると、フルタイム、パートタイム両者に対して説明力に乏しい結果となった。

パラメーターの符号は、フルタイムがプラスである一方、パートタイムがマイナスである。これは、女子の高学歴化が進み、男子との学歴面での格差が縮小するのに伴って、男子と同等に働く、すなわちフルタイムで働く女性が増加する一方、パートタイムで働く女性が減少する傾向が強いことを示しているものと判断される。

ちなみに、既婚女子全体を推計した結果をみると、説明力には乏しいものの、学歴のパラメーターはプラスである。このことから、女子の高学歴化は、女性の就業に対してプラスに働いていることが読みとれる。

以上のパネル分析では、出生率を世帯主所得等その他の説明変数とは独立の変数として捉えているという問題が残る。すなわち、出産およびその後の子育ては多額の費用を要すると同時に、妻の時間的余裕を制約することを通じて妻の就業、すなわち所得獲得機会に対してマイナスに働くことが見込まれる。このため、出生率には世帯主の所得が大きく影響していることが推察される。

そこで、就業率と出生率を同時に決定する同時方程式モデルを推計し、その結果を出生率を独立の変数とした場合の先の推計結果と比較してみた。これによると、全体的には説明変数の説明力は若干落ちるものの、パートタイム就業率は世帯主の所得変動に対して非常に弾力的であるという先述の結論とほぼ同様の結果が得られた。なお、この詳しい推計結果については[付論]を参照。

既婚女性の労働供給に関する観測事実をまとめたもので、ダグラスと有沢により発見された。具体的には、まず第1に、世帯主の所得が低いほど家族の有業率が高くなる、第2に、失業率等で表される就業機会が上昇するするほど家族の有業率は高くなる、第3に、世帯主の有業率は賃金率の変化に対して不感応的である、という3つの部分で構成されている。

4.既婚女性の労働力活用に向けて

以上の通り、パートタイム就業者はフルタイム就業者に比べて世帯主の所得変動に対して敏感であり、自分の所得が優遇措置適用の範囲内に収まるように労働供給をコントロールしている可能性が高い。さらに、出生率はパートタイム就業に対してはプラスに働いているものの、フルタイムに対しては大きくマイナスに働いている結果、就業者全体に対しては負の方向に働いている。

少子化の進展に伴って労働力人口の先細りが懸念されるなか、わが国経済が持続的な成長を達成するためには、既婚女子労働力の活用は重大な政策課題である。

このためには第1に、(1)産休および育児休暇の有給化(注4)、(2)児童手当の拡充、(3)託児所の整備等、既婚女性が働きやすい環境の整備を進めることが不可欠である。

これによって、まず、就業より出産を選択した専業主婦に対しては、就業の門戸が開かれることが見込まれる。次に、パートタイムで働く主婦に対しては、仮に優遇政策が撤廃された場合でも、労働市場から撤退するインセンティブが弱まることになる。さらに、フルタイムで働く主婦に対しては、出産のハードルを低めることにより、少子化の一段の進行に歯止めがかかることも期待される。このようにみると、労働環境の整備は、既婚女性の労働力活用の大前提であるといえる。ちなみに、わが国の育児休暇・手当制度と児童手当制度をドイツ、スウェーデンの2国と比較すると、図表7の通りである。

第2に、パートタイム就業者と専業主婦に対する優遇政策の見直しを通じて、彼女達の労働提供に対するインセンティブを高めることが求められる。

すなわち、優遇政策の存在を背景に彼女達が労働供給をコントロールしているということを別の側面からみると、これら優遇政策が彼女達をパートタイムの地位に留めていると捉えることができる。したがって、給与所得の増加が可処分所得の増加にストレートに反映される体制を構築することにより、専業主婦が労働市場に参加することが見込まれると同時に、パートタイム就業者が労働供給を増加することが期待される。具体的には、これら優遇政策の撤廃か、逆に優遇政策の適用範囲の拡大が考えられる。

まず、優遇政策の撤廃についてみると、配偶者控除や社会保険料の免除等事実上の補助金の撤廃により、専業主婦については就業へのインセンティブが高まると同時に、パートタイム就業者については労働提供の増加やフルタイムへのシフトが見込まれる。加えてフルタイム就業者については、労働の供給量自体は変わらないものの、フルタイムで就業することによって税制等の面で不利になることはないという「中立性の原則」が確保される結果、これまでの不平等感が解消される。以上を要すると、この政策は、ミクロ的にはこれまで優遇政策を受けてきた家計に対して負担増を強いるものの、マクロ的には既婚女性の労働供給を増やす結果、経済成長を下支えすることが見込まれる。

一方、優遇政策の適用範囲の拡大についてみると、専業主婦の労働市場への参加やパートタイム就業者の労働時間の延長が見込まれる。もっともフルタイム就業者については、パートタイムの有利性が高まる結果、パートタイムへのシフト、すなわち、労働供給の減少が生じる可能性がある。このようにみると、優遇政策の適用範囲拡大は、労働供給に与える影響を一義的に決定しないが、家庭の主婦が自由に労働時間を選択できるという意味において弾力的な労働市場の形成に寄与することが見込まれる。

なお、労働形態の自由化が有効に機能するためには、フルタイム形態とパートタイム形態の間の待遇の格差(福利厚生制度の適用等)を是正することが必要である。このためには、企業経営者において、パートタイム就業者を労働力需給の調整弁として利用するのではなく、貴重な人的資源の一部として活用していくという意識改革が求められる。

経済の成熟化が進展するわが国において、既婚女性は労働力供給の源泉であると同時に、少子化の行方を左右する貴重な存在である。この意味において、既婚女性にとって働きやすい労働環境の整備は、生活大国実現に向けての第1ステップと位置づけられよう。

わが国では、被用者が出産や育児のために休暇を取得する場合、一定の所得が法的に保障されている。すなわち、まず出産時については、出産の6週間前から出産後8週間までの計14週の間、出産手当金として所得の60%に相当する金額が健康保険法に基づいて支給される。一方育児休暇中については、雇用保険法により所得の25%に相当する金額が保障される。 もっともこれらの制度は、企業により支払われる休暇中の給与が、ゼロあるいはこれらの補償水準を下回る場合に適用される。企業によっては出産時に100%の給与を支払っているケースもあり、実際の休暇中の所得については各企業の福利厚生制度により異なっているのが実情である。

[付論] 就業率と出生率の同時方程式モデルについて

付論では、フルタイムおよびパートタイム就業率と出生率の同時方程式モデルの推計結果について簡単に記述する。 まず、基本モデルは以下の2式である。

出生率=α+β×(世帯主所得(-1)、自然対数値)+γ×(大都市圏ダミー)+ε

就業率=δ+ζ×(世帯主所得、自然対数値)+η×(出生率)+θ×(学歴)+μ

ここで、大都市圏ダミーとは、8大都市を含む都府県(東京、千葉、埼玉、神奈川、愛知、大阪、兵庫および福岡)を1、その他を0とするもので、地域間格差を表す変数である。また、その他の変数については、第3章と同一である。

推計結果は、以下の通りである。

1 出生率関数

まず、出生率関数(図表8)についてみると、世帯主所得は1%で有意にプラス、大都市圏ダミーは5%水準で有意に負である。世帯主所得がプラスに効いているのは、出産および子育てには多額の費用(機会費用を含む)がかかるためと推察される。一方、大都市圏ダミーがマイナスに効いているのは、劣悪な住宅事情等、大都市に特有の要因が働いているためと考えられる。

2 就業率関数

就業率関数(図表9)についてみると、まず、世帯主所得は、フルタイムに対してはほとんど説明力を持たない一方、パートタイムに対しては10%水準で有意である。パートタイムのパラメーターの絶対値は7.19と、先述の失業率を独立の変数とした場合の推計結果(6.96)とほぼ同水準であり、パートタイム就業率は世帯主の所得変動に対して非常に弾力的であるという先述の結論とほぼ同様の結果となっている。

次に、出生率についてみると、フルタイム、パートタイムともに説明力は低い。パラメーターの符号はフルタイムが負、パートタイムが正で、先述の失業率を独立変数とした場合の推計結果と同じである。また、既婚女子全体の就業率を被説明変数とした場合のパラメーターも▲4.41とマイナスであり、出生率自体は妻の就業に対してマイナスに働くという先の結果と一致している。

最後に、学歴についてみると、フルタイムに対しては10%水準で有意な一方、パートタイムに対しては説明力が乏しい。パラメーターの符号は、先述の結果と同様にフルタイムが正、パートタイムが負である。さらに、既婚女子を被説明変数とした場合も0.07とプラスであり、第3章の推計結果と一致している。

注  

1.「フルタイム」と「パートタイム」の定義について
2.出生率の独立性について
3.ダグラス=有沢の法則
4.わが国の出産手当金と育児休業給付金について
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