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Business & Economic Review 1996年08月号

【論文】
1996年度改定経済見通し-バラツキ残る構造調整と求められる政策転換

1996年07月25日  


要約

96年1~3月期の実質GDP成長率は前期比年率で12.7%と、大方の予想を大きく上回る高成長を記録。こうした成長ペース加速がみられた背景には、(i)財政・金融面からの政策効果が集中的に現れたことに加えて、(ii)民間部門でのリストラ進捗など構造調整がある程度進んできたこと、(iii)情報・通信産業が急速に成長してきていること、等の事情がある。

もっとも、民間部門での構造調整の進捗度合いには、部門ごとにバラツキ。調整が遅れている分野では引き続き景気の下押し要因として作用する構図は不変。

(i)産業構造調整…情報・通信産業を中心とする新産業が台頭する一方で、国際水平分業構築に向けた海外生産シフト・製品輸入増加の動きは円安のもとでも根強く持続、上向きの力の多くを相殺。

(ii)価格調整…行き過ぎたデフレ圧力は円安のもとで消滅。もっとも、輸入品との競合や大幅な内外価格差が残存するもとで、国内物価の下押し圧力は容易に軽減せず。

(iii)バランスシート調整…大企業・製造業では調整がかなり進展する一方、中小企業・製造業、建設・不動産業では依然として厳しい状況が残存。

このように、「後ろ向きの構造調整」は徐々に進捗している半面、規制緩和等による新規産業・新市場の育成といった「前向きの構造調整」は依然遅れている状況。例えば、今後最大の成長分野として期待されるマルチメディア産業では米国に大きく水をあけられている状況。また、財政・金融面での政策依存が長期にわたり続いたことで、今後は政府部門の構造改革が待ったなしの状況に。

今後の景気動向を展望すると、これまでの景気回復の最大の立役者であった公共投資が減少に転じるほか、超低金利政策の継続も限界に近づくなかで、金利低下の企業部門へのプラス効果が一巡することが予想されるため、政策関連需要は逆に景気回復の抑制要因として作用。さらに、来年度以降財政再建路線への転換が本格化するなかで、消費税率引き上げ・特別減税廃止が大きなデフレインパクトとして作用することは不可避。

「後向きの構造調整」が進展するもとで、民間部門の自律回復力は徐々に強まる方向ながら、情報・通信分野のコメともいえる半導体産業の成長ペースダウン、等を勘案すると、政策関連需要の落ち込みを完全に埋め合わせるほど民間需要の回復ペースが加速する公算は小さく、秋口には補正予算による公共投資の追加を余儀なくされる見通し(本予測では真水で2兆円規模を想定)。

以上の結果、96年度の実質GDP成長率は2.8%と、昨年度からのゲタ(2.9%)もあって潜在成長率を上回る成長を達成する見通し。ただし、大幅な需給ギャップが残存するもとで、雇用面では厳しい状況が続く公算大。さらに、97年度を展望すれば、消費税率の5%への引き上げににより実質成長率は 0.7%押し下げられると試算され(特別減税は継続を前提)、再び2%を下回る低空飛行を余儀なくされる見通し。

こうした状況下、わが国経済が本格回復を実現するには「前向きの構造調整」をいかに進めるかが最大の課題。そのための妙手はなく、規制緩和・撤廃を主軸とする競争促進によって民間活力を最大限に発揮させ、新規産業・新市場を育成していく地道な努力が不可欠。

景気は自律回復の条件を整えつつあるとはいえ、財政面からの政策依存のツケが一挙に表面化する97年度は消費税引き上げのマイナス・インパクトが駆け込み需要の反動も加わって予想以上に大きくなる恐れ。このため、景気腰折れのリスクが強まる場合には、財政再建ペースを緩める形で景気刺激策を講じることも已むなし。ただしその際、効率性が低い従来型の公共事業では無意味であり、硬直的な事業配分の大胆な見直しと行財政改革の断行が大前提。それができなければ、資源配分を民間に任せる減税がより望ましい選択肢といえよう。
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