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Business & Economic Review 1996年08月号

研究開発部門の生産性向上-良い研究テーマの企画方法

1996年07月25日 斉藤至昭


1.はじめに

「研究開発部門の運営は難しい。100個の研究テーマに着手しても、事業化に結びつくのは僅かである。」ということがよく言われている。多くの企業で多数の研究テーマが実行されているが、それらのテーマの中から実際に事業化に結びついたものは少ない。このことを考えると、「実行された研究テーマの事業化に結びつく割合を高める」といった形で研究開発部門の生産性を向上させることは、確かに難しいと言える。研究開発のプロセスは、テーマ企画プロセスとテーマ実行プロセスに分けられるが、本論文ではテーマ企画プロセスに焦点を当て、どのようにしたら事業に結びつく割合の高い研究テーマ、すなわち良い研究テーマを企画できるかを検討する。

2.テーマ企画プロセスにおける問題点

研究開発のテーマは、事業化を目的として起案されたテーマ(応用研究テーマ)とそうでないテーマ(基礎研究テーマ)に分類される。

応用研究の場合、取り組んでいる技術と目的とした事業との関係が適切でないということが途中で判明することがある。例えば、「目的とした商品はこの技術では実現できない」、「商品実現には他の技術の方が適している」、といったことが判明したりする。このような事業化に結びつかなくなったテーマでも、中止が行われずに継続されることもあり、その場合、「実行した研究テーマの事業化される割合」は低くなってしまう。

事業との結び付きがなくなったのに研究開発が継続されるのは、研究活動での研究テーマの企画段階と実行段階にそれぞれ問題がある。企画段階の問題とは、一つの商品に対してどのような技術で実現できるかが事前に助ェ検討されていないといった、「技術と事業の関係付けの検討が不助ェな状態でテーマに着手している」という問題である。実行段階の問題とは、この技術をもう少しやりたいといったような研究者の意識によって、「技術が適切でないことが判明してもテーマの中止が行われない」という問題である。

ここでは、「企画段階での技術と事業の関係付けの検討が不助ェ」というテーマ企画プロセスにおける問題の原因を探っていく。

3.問題が発生する原因

一般的に、技術戦略策定によって強化・獲得すべき技術分野が決定されたら、これらの技術分野の範囲に入るような研究テーマの候補が、事業部と研究開発部門から提案される。事業部からの提案テーマは、例えば「不審人物の侵入検知装置」といったような商品イメージ先行であり、どの技術を研究すればよいかが判らないことが多い。逆に、研究開発部門からの提案テーマは、例えば「磁気歪み技術」といったような技術イメージ先行であり、その技術がどのような商品開発に使えるかが判らないことが多い。よって、これらの提案テーマに対して、技術と商品(事業)を関係付けるために、SFN(シーズ・ファンクション・ニーズ)分析という作業が行われる。これは、技術(シーズ)でどのような機煤iファンクション)が実現され、そのファンクションによってどのような商品(ニーズ)が作られるかを関係付ける作業である。SFN分析を終えたテーマに対して、技術の魅力度・難易度が検討され、実行するテーマが決定される。

しかし、SFN分析がファンクション中心で行われることは少なく、これが技術と事業の関係付けの検討が不助ェになる原因の一つになっている。

4.ファンクション中心のSFN分析

SFN分析は、研究開発部門と事業部の企画部門で行われるのが一般的であり、その作業の流れは図普|1のようになっている。研究開発部門Aでシーズ(A-1)が提案され、それからファンクション(A-1)が作られ、これが事業部企画部門Aに渡されニーズ(A-1)が作られる。事業部企画部門Aでニーズ(A-2)が提案され、それからファンクション(A-2)が作られ、これが研究開発部門Aに渡されシーズ(A-2)が作られる。研究開発部門は商品のことは詳しく分らず、事業部企画部門は技術のことは詳しく分らないので、ファンクションを介してのコミュニケーションが行われる。 図普|1

しかし、一つのファンクションを実現するには、複数の技術案があることが多く、また一つのファンクションから複数の商品案が出ることも多い。例えば、「部屋にいる人の有無を検知する」というファンクションに対しては、「赤外線検知技術」、「振動検知技術」など複数の技術案が出てくるし、「不審人物の侵入検知装置」、「冷凍室の作業員閉じ込め防止装置」などの商品案が出てくる。ファンクションがどの商品・技術と関係があるかが不明確であるからといって、ファンクションに対して全技術部門・全事業部が技術・商品を検討することはない。一つの技術から複数のファンクションが出ることも多く、検討しなければならないファンクションの数は、膨大な量になることが多いからである。

よって、事業部と研究開発部門が各々複数部門ある場合、ファンクションをどの部門に渡すべきかという判断が重要になるが、通常は、どの部門に渡すべきかが明確でなく、ファンクションを作った部門が多分関係すると思う部門に渡している程度である。また、渡された部門も助ェファンクションを検討するとは限らない。 結局、SFN分析で事業と技術の関係付けの検討が行われたように見えるが、実際は不助ェな検討であり、「ある商品を告ャするファンクションを実現するには、技術(A-1)よりも研究開発部門Bの技術分野の技術(B-1)の方が実は適していた」、ということが生じてしまうこともある。 図普|2で示すように、得られたファンクション(A-1)を起点にして、このファンクションはシーズ(A-1)以外で実現できないか、このファンクションからニーズ(A-1)以外のものは作れないか、といった「ファンクション中心のSFN分析」を行うことが、技術と事業の関係付けを的確に行うためには必要である。 図普|2

5.対応策

ファンクション中心のSFN分析が実施できないのは、企画作業に要する時間が助ェとれないといったこともある。しかし、企画作業に対する姿勢と企業の組織体制の2つの点で、実施を阻害する重要な要因がある。

(企画作業に対する姿勢)

研究者は研究すること自体に意義を見いだすが、その技術の用途を考える企画作業に対しては熱意を持たないことがある。また、熱意を持ったとしても、研究者の評価は研究成果に対して行われ、企画作業の結果に対する評価はあまりされない。結果的に、研究者は企画作業に熱心に取り組まなくなる。また、研究部門のコストは事業部全体から集めており、事業部の方では、研究部門全体に対しては「無駄金を使っている」といったようなコスト意識は働くが、研究テーマの一つ一つに対してはコスト意識は希薄であり、自部門の事業に密接に関係することが明らかな研究テーマ以外は、さほど真剣に検討しなくなってしまう。結果的に、事業部の企画部門といえども、真剣に企画作業に取り組まないテーマもある。

いずれしても、研究テーマの企画について積極的に取り組む姿勢が無い場合が多く、この結果、企画段階で既に失敗するケースとなる。 (企業の組織体制)

研究開発部門の組織は技術分野別、事業部は事業分野別に分割されているのが一般的である。このため、どの部門に関係するファンクションであるかを、その内容から判断するのは難しくなり、ファンクションを渡す事業部の範囲が適切でないこともある。

以上の阻害要因を取り除くには、例えば、次のような対策が有効である。

・企画作業の結果を研究者の評価対象とする。
・各研究テーマに要するコストは、テーマ別に事業部から徴収する。
・ファンクション別の委員会等を設け、それが中心になってSFN分析を行う。

ファンクション別の委員会を設けるとしたら、ファンクションに関係する技術・事業分野の範囲が分らないことを考えると、誰をどのファンクション委員会の委員にするかは重要ではない。ある一つのファンクション委員会の各告ャ員の持っている迫ヘと経験を合わせると、企業全体の技術・事業分野をカバーするような形に告ャすることが重要になる。各委員会のリーダーとしては、技術と事業がある程度分る人、例えば事業部で開発・設計と企画を経験した人などが適切である。また、助ェな検討がされるためには、委員会を告ャする各委員は、必ず与えられたファンクションについて、自分の担当分野についてのシーズ・ニーズのアイデァを出すような仕組み(評価制度など)が必要である。ファンクション別の委員会を設けるとしたら、ファンクションに関係する技術・事業分野の範囲が分らないことを考えると、誰をどのファンクション委員会の委員にするかは重要ではない。ある一つのファンクション委員会の各告ャ員の持っている迫ヘと経験を合わせると、企業全体の技術・事業分野をカバーするような形に告ャすることが重要になる。各委員会のリーダーとしては、技術と事業がある程度分る人、例えば事業部で開発・設計と企画を経験した人などが適切である。また、助ェな検討がされるためには、委員会を告ャする各委員は、必ず与えられたファンクションについて、自分の担当分野についてのシーズ・ニーズのアイデァを出すような仕組み(評価制度など)が必要である。

6.おわりに

これまでの日本メーカーにおいては、外国から必要な技術を輸入することが比較的簡単であったため、研究テーマを実行する必要性は少なかったと言われている。しかし、今後、外国からの技術供与に対しては莫大な特許料が必要になるなど、技術輸入が難しくなる中で日本メーカーも独力で研究テーマを実行する必要性が増している。

企業の成長戦略の中で技術戦略の重要性は増しているが、研究活動は担当者以外が内容を理解するのは難しく、研究活動の管理方法は、生産部門などの他部門と比較して遅れている状況である。

従って、企業における研究活動の位置づけを再度明確にし、研究テーマの企画方法などの研究活動管理方法を見直すことが求められる。
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