コンサルティングサービス
経営コラム
経済・政策レポート
会社情報

経済・政策レポート

Business & Economic Review 1999年05月号

【論文】
「都市型」公共投資は効率的か-都道府県別マクロ生産関数による政策評価の試み

1999年04月25日 調査部 別所俊一郎


要約

公共投資の質の向上を求める声が強まってきている。その背景は主に、(1)公共投資は本来社会資本整備を目的とすべきだが、地域間所得再分配の手段となっている、(2)その結果、公共投資の配分は地方選出議員の政治的圧力によって歪められており、効率性を阻害されている、との認識である。

このような状況下、「都市型公共事業」は明確な定義もないままに公共事業の質の向上の切り札のごとく扱われ、予算編成のキーワードともなった。しかし、「都市型公共事業」が従来型公共事業よりも効率的であることは自明ではなく、実証的な検証が不可欠である。

そこで、労働投入・民間資本・社会資本を生産要素とするマクロ生産関数を都道府県別に推定し、社会資本が県内総生産に与える効果を都道府県別に比較してみた。その結果、東京、大阪、兵庫、神奈川等、都市圏に属すると考えられる都道府県の社会資本が県内総生産に与える効果は、他の都道府県と比べて大きいという結果が得られた。このことは、都市圏での社会資本の充実、すなわち公共投資が他の都道府県に比べて生産性が高いことを示している。

各都道府県の社会資本が総生産に与える影響は、公共投資依存度や国会議員選挙における票の重みと相関を持っており、公共投資による所得再分配や「1票の格差」が公共投資の効率性を損なっていることが示唆された。

また、公共投資の効率性を阻害している制度的要因として、地方債の起債許可制度、補助金、地方税の設定に関する地方自治体の裁量の少なさ、を挙げることができる。現行の地方財政制度のもとでは、地方自治体は効率的な公共投資や財政運営を行うインセンティブを殺がれているのである。

以上の実証的・制度的分析を踏まえると、より効率的な公共投資のためには、(1)都市圏への重点的な公共投資、(2)国庫支出金の一般財源化、地方自治体の課税自主権の拡大、起債許可制度の見直し、(3)ミクロレベルからマクロレベルまでの政策評価、が不可欠であり、「1票の格差」も是正される必要がある。もっとも、東京一極集中に象徴される過疎と過密の問題については、より高い観点から別途検討が加えられる必要がある。また、従来型公共投資が担ってきた地域間所得再分配機能や雇用維持機能については、そもそも公共事業がこのような機能を担うべきかという点を含めて、地方自治体が主体的に再検討する必要があり、地方の主体性が発揮できる制度設計が急務である。
経済・政策レポート
経済・政策レポート一覧

テーマ別

経済分析・政策提言

景気・相場展望

論文

スペシャルコラム

YouTube

調査部X(旧Twitter)

経済・政策情報
メールマガジン

レポートに関する
お問い合わせ