Business & Economic Review 2002年12月号
【REPORT】
設備投資減税の効果と望ましい在り方
2002年11月25日 調査部 経済研究センター 益田郁夫
要約
- 景気に再び腰折れ懸念が生じるなか、わが国経済を持続的な成長過程に復帰させるためには、中長期的な経済活性化効果と短期的な需要促進効果を併せ持つ政策が求められる一方、その政策は財政再建路線に整合的であることが必要である。そこで、本レポートでは、設備投資減税について、a.需要創出効果(短期効果)、b.生産性引き上げ効果(長期効果)、c.財政収支への影響、の観点から分析した。
- 投資減税の方法には、主に、a.投資金額のうち一定額を税額から控除する「投資税額控除」と、b.減価償却のスピードを速める「加速度償却」がある。「投資税額控除」は、減税分だけ期待収益率を高めることで設備投資を喚起しようというものである。これに対し「加速度償却」は、税法上の償却を前倒しにすることによって、税金の支払時期を先送りさせる効果をねらったものである(投資採算にはほとんど影響しないため、基本的に、キャッシュ・フロー改善による設備投資の喚起を意図)。
- 最近は、設備投資の水準は営業キャッシュ・フローの約7 割の水準となっている。この比率が安定していると仮定すれば、1兆円規模の減税が実施された場合、設備投資は0.7兆円増加することになり、投資減税の効果は大きいと考えられる。
- わが国では設備資本ストックの老朽化が急速に進んでおり、これが、資本生産性を引き下げていることが確認可能である。中長期的な観点からもヴィンテージを若返りさせる投資減税は必要である。
- 財政的な観点からは、投資税額控除を業種や用途などを限定せずに実施した場合、財政の大幅な悪化を招き、適当ではない。一方、加速度償却については、基本的に税金の支払時期の先送りであり、財政負担は比較的小さい。もっとも、償却期間が長い設備については、その影響を抑制するような償却スケジュールの検討が必要である。
- 以上により、 a.投資減税には設備投資を喚起する効果が認められる。再び景気の先行きへの懸念が強まるなか、民需喚起策として、投資減税を活用すべきである。 b.投資税額控除は、財政負担が大きいため、効果が高い分野に限定したうえで導入すべきである。 c.研究開発費税制の拡充は、早急に対応すべきである。 d.加速度償却については、財政への過度の負担を排除しながら、包括的な制度として導入すべきである。 e.法定耐用年数と実際の耐用年数の間に乖離が生じている可能性もあり、法定耐用年数の抜本的な見直しまでのつなぎとしても、加速度償却は有効である。

