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Business & Economic Review 2002年09月号

【POLICY PROPOSALS】
配偶者控除の在り方と少子化・子育て対策-望まれる一体的視点からの見直し

2002年08月25日 飛田英子


要約
  1. 抜本的な税制改革に注目が集まっている。国民に信頼・納得される税制を構築するためには、税収中立化か経済活性化かという一面的な観点からではなく、多面的な視点からサステイナブルな税制のグランドデザインを策定するとともに、それに向けた具体的なスケジュールを国民に提示する必要がある。
    こうした問題意識のもと、株式会社日本総合研究所調査部では本年3月に税制研究会を立ち上げ、経済活性化、財政健全化、少子高齢化等、様々な観点から望ましい税制の在り方について検討を重ねてきた。本稿は、その第1弾として、女性の就業と出産・子育ての両立を可能にする環境の構築という観点から、配偶者控除や配偶者特別控除を含めた専業主婦に対する諸制度の見直し、望ましい少子化対策の在り方を取り上げた。

  2. わが国には、a.税制における配偶者控除と配偶者特別控除、b.社会保障制度における「130万円基準」、c.企業の福利厚生制度における配偶者手当等、様々な分野で専業主婦を対象とする制度が存在する。
    近年、女性の社会進出を背景に、これらの制度の問題点がクローズ・アップされるようになってきた。具体的には、以下の4点である。

    a.水平的公平性

    共働き世帯では配偶者控除や配偶者特別控除、妻の社会保険料免除が適用されないのに対して、片働き世帯ではこれらのメリットを享受している。さらに、妻が103万円以下で年収を調整している世帯では、妻の基礎控除と夫の配偶者控除というニつの人的控除が適用される。

    b.垂直的公平性

    同じ片働き世帯でも、累進税制のもとでは夫の所得が高い世帯ほど配偶者控除と配偶者特別控除の減税効果が大きい。

    c.適用状況

    配偶者控除や配偶者特別控除等の適用が真に必要な低所得世帯では、妻が長時間働く傾向が大きいため、これらの控除を受けている世帯が少ない。

    d.既婚女性の労働供給を阻害

    アンケート調査によると、パートタイム就業者のうち、約8割が配偶者控除を理由に、約4割が社会保険料免除を理由に就労調整していると回答している。

  3. 政府税制調査会や経済財政諮問会議では、配偶者特別控除については廃止、配偶者控除については存続、縮小あるいは廃止の選択肢が検討されている模様である。ただし、仮に配偶者控除が存続されるとしても、妻の年収を基準とする現行制度の枠組みを維持するもとでは、働く女性とそうでない女性との間の不公平性や妻の就労調整等、制度が抱える問題点を解決できない。

  4. これに対して当研究会では、女性の就労と出産・子育ての両立が可能な環境を構築するという観点から、配偶者控除や配偶者特別控除の改革を検討してきた。具体的な政策提言は、以下の通りである。

  5. フルタイムで働く妻の増加を背景に、配偶者控除と配偶者特別控除は担税力の補填という本来の機能を果たしていないことに加え、配偶者控除が適用される妻の割合は低下傾向にある。さらに、他の主要国をみても、個人を課税単位とする国において配偶者に関して二重の人的控除を設定しているケースはない。
    したがって、配偶者控除と配偶者特別控除は双方とも廃止すべきである。ただし、中低所得世帯の増税緩和措置として、年収740万円以下の夫については、妻の年収にかかわらず38万円を上限に、夫の収入に応じて段階的に減少する「特別扶養控除」を創設する。
    ちなみに、配偶者控除と配偶者特別控除撤廃による増収効果は2.1兆円と試算されるが、特別扶養控除の創設により、税収増は1.8兆円にとどまる見通しである。 なお、両控除の撤廃は、これによる税収増を少子化・子育て支援に全額支出することが条件となる。両者の一体的な実施により、マクロ的な可処分所得は変わらないが、低所得世帯への所得再分配を通じて、景気に対して若干のプラス効果が期待される(個人消費を0.03%ポイント押し上げると試算)。

  6. 配偶者控除と配偶者特別控除の廃止による税収増は、全額を少子化・子育て支援に充当する。具体的な内容は、以下の3点である。

    a.保育所の整備

    潜在的に10万人以上いる待機児童を、2004年度までに解消する。これに必要なコストは、空き教室の利用や運営の民間委託等により年間1千億円に抑えることが可能。

    b.低年齢児(0~2歳)保育の無料化

    就業と出産・子育ての両立が困難な理由として、子育て費用の負担の重さが指摘される。なかでも2歳以下の低年齢児の保育コストは、3歳児以上の2~4倍の水準に達している。したがって、低年齢児の保育料を無料化することにより、保育コストの大幅な軽減を実現する。これに必要な費用は、年間約4千億円と算定される。

    c.児童手当の拡充

    不十分な現行の児童手当を、主要国レベルに引き上げる。具体的には、(イ)対象年齢の引き上げ(義務教育就業前→義務教育終了後)、(ロ)所得制限の撤廃、(ハ)第2子支給額の引き上げ(月5千円-月1万円)、の3点である。これに必要なコストは年間1兆7千億円と試算されるが、現行の児童手当関連予算(約4千億円)を活用することにより、ネットの負担は1兆3千億円となる。なお、義務教育終了後の児童については、特定扶養控除を存続することにより家計収入に配慮する。

    また、少子化克服のためには、勤務体制の柔軟化、企業託児所の設置等、企業の積極的な取り組みが不可欠となる。政府は、企業の自助努力に委ねるだけではなく、税制面から企業の取り組みをサポートする必要がある。

  7. さらに、社会保障制度の130万円基準についても抜本的に見直す必要がある。具体的には、a.社会保険料のpayroll tax化、b.基礎年金の税方式化、を通じて、第3号被保険者問題を解決するとともに、パートタイマーの就労調整インセンティブを解消する。 なお、社会保険料のpayroll tax化は、社会保障制度のサステイナビリティ確保の観点からも重要である。

    すなわち、制度に対する国民の信頼を回復するためには、現役フルタイムの負担が重い従来の負担システムから、負担能力のある者全員で負担を分かち合うシステムへの転換が不可欠である。
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