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Business & Economic Review 2002年07月号

【REPORT】
組み立て系製造業におけるサプライチェーン計画モデル

2002年06月25日 研究事業本部 石川和幸


要約
サプライチェーンマネジメント(以下、SCM)構築支援に係る実務経験を通して、計画系業務の優劣がSCMのパフォーマンスを決める重要なファクターであると考えた。変化の速い市場を前にして、高まりつつあるリスクに対応するためには、企業は市場へのレスポンシビリティーを高めることが必要であり、それには需要の変化に迅速に対応するための計画系業務が決定的に重要となる。

  1. SCMの先行研究の概観

    生産システムや製販統合を扱った岡本公博の研究から、「計画の成熟化」を、また、SCMのプロセス統合・参加に関して、Lambert らのSCM フレームワークを活用する。

  2. 仮説

    本稿では、以下の仮説検証を行った。
    H1.1 :ひとつの計画で熟成化を行っている場合、他の計画でも熟成化を行う。
    H1.2 :計画熟成化の実行度が高いほど、CCC (Cash Conversion Cycle )のパフォーマンスが高い。
    H1.3 :市場不透明度が高いほど計画熟成化が行われる。
    H2.1 :サプライチェーンの統合度が高い(幅広い構成員が参加する)ほど、CCC のパフォーマンスが高い。
    H2.2 :市場不透明度が高いほど統合度が高まる。

    以上の仮説を検証するために、組み立てメーカーを中心とした上場企業180社から回答があったアンケート調査に基づき、共分散構造分析を行った。

  3. 仮説検証結果

    結果的に、仮説H1.1、H1.2は支持され、H1.3は支持されなかった。企業の計画熟成化は環境要因で決まるのではなく、企業の意思として選択できる戦略であり、計画熟成を行うことで、CCCを向上させることができることが分かった。
    また、H2.1に関しては、生産計画と調達計画立案時にサプライヤー側を統合していた場合、CCCの向上に寄与するが、販売計画と生産計画では、小売りなど下流を参加させるほどCCCが悪化することが分かった。 これは、在庫リスクが上流へシフトされていることに大きな要因があることが想定される。すなわち、製造業にとっては、下流が計画立案時に参加する場合、在庫リスクを押し付けられることを意味している。一方、調達計画立案時には、下流の参加はCCCの改善に寄与している。
    これは、調達すべき部品が特定されることで、在庫への寄与が考えられる。 仮説とは異なり、販売計画時、生産計画時に下流が「参加」することは、CCCにマイナスの影響があるという結果になったが、これは製造業を中心にCCCを測定したためと推測する。CCCは在庫の水準に影響を受けるため、製造業に在庫リスクが押し付けられる場合、悪化するのは当然であろう。この指標のみで、サプイチェーンのパフォーマンスのすべては語れないのは明らかであるが、現状ではサプライチェーン全体を測定する指標が想定できないこと、また、他の指標として、受注充足率などの測定が困難であったことなどからCCC に限定して分析した。 結果としては有意義な実証研究ができたと考える。分析結果から、戦略的提言として以下3点を挙げる。

    ・提言1 「組み立て系製造業は、計画熟成化を行うべきである」
    組み立て系製造業は、すべての計画について、同期させて熟成化を行うべきである。このことにより、粗い予想から仕様と数量の確定に向けて、計画を精緻化し、在庫リスクと欠品リスクを最小化していくことができ、CCCを改善することができる。

    ・提言2 「組み立て系製造業は、上流と積極的に計画統合を行うべきである」
    組み立て系製造業は、サプライヤーと計画統合を行うべきである。このことにより、在庫の投機ポイントをサプライヤーに移動することができ、在庫リスクを軽減し、CCC を改善することができる。ただし、このとき、サプライヤーとのリスク配分(引き取り期間の設定や滞留・製造中止時の対応)については十分に合意する必要があり、かつ関連法規(いわゆる下請法)にも配慮する必要がある。

    ・提言3 「組み立て系製造業は、下流との計画統合を慎重に進めるべきである」 組み立て系製造業は、下流との計画統合を慎重に進めるべきである。とくに利益とリスクの配分は納得がいくまで話し合うべきである。単純に下流のSCM に組み込まれることは、業績に良い影響をもたらさない可能性がある。場合によっては、製造業は計画立案に人的な参加を求めず、販売情報、店頭在庫情報のみを取得することで、情報の連携を図る統合が有効な選択肢かもしれない。このことで、下流の交渉力に圧倒されることなく、企業意思として計画立案が可能になる。
    ただし、小売りや卸にとって、販売情報、店頭在庫情報は重要なパワーの源であるため、呼応した情報が簡単に入手できるとは限らない点は留意が必要であろう。
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