Business & Economic Review 2002年06月号
【REPORT】
わが国貸家市場の現状と活性化に向けた課題
2002年05月25日 調査部 経済研究センター 西川崇
要約
- 貸家をめぐる「ミスマッチ」 貸家供給が増えはじめ、貸家利用に対する潜在需要も高まっているにもかかわらず、実際に貸家の利用が進まないという「ミスマッチ」が生じているのはなぜか。本稿では、この原因を探るとともに、貸家利用が進んでいる欧米諸国の事情を参考に、貸家利用促進に向けた今後の住宅政策の在り方について考えてみたい。
- わが国貸家市場低迷の原因 貸家に対する潜在需要が徐々に高まってきているにもかかわらず、わが国で貸家市場が低迷している。a.良質な貸家の供給が不足していることに加え、b.貸家利用に対する政策支援が持ち家取得・利用に比べ大きく劣っていることが、その原因と考えられる。
- 欧米諸国の住宅政策 今後のわが国における住宅政策のあるべき姿の参考とするため、欧米諸国(アメリカ、イギリス、ドイツ、フランス)の住宅政策についてみると、欧米諸国の借家ストックは、a.わが国の借家ストックより大きく、b.持ち家ストックとの格差もわが国より格段に小さい。これは、欧米諸国が、持ち家優遇政策を継続してきたわが国とは異なり、持ち家とならんで貸家についても同等に普及のための諸施策を講じてきたからである。
- わが国貸家市場の活性化に向けた課題 わが国貸家市場にみられる「ミスマッチ」を解消し、潜在的な貸家需要を満たす良質で低コストな貸家の供給が進む状況を作り出すためには、現下の持ち家優遇に偏った住宅政策スタンスを抜本的に見直し、貸家利用に対する潜在需要を顕在化させるための施策を行っていく必要がある。貸家利用が進んでいる欧米諸国の事情を参考にすれば、わが国貸家市場を活性化させるための具体的施策として(1)貸家の質的向上に対する助成策の拡充、(2)低所得者層向けの家賃補助制度の拡充、(3)定期借家制度の普及促進、が必要であろう。

