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Business & Economic Review 2002年03月号

【REPORT】
中高年の就業確保手段の一つとして自営の推進を

2002年02月25日 調査部 環境・高齢社会研究センター 続木文彦


要約

  1. わが国の高齢者の労働力率を長期的にみると、年金などの社会保障制度の充実や自営業主の減少などにより低下傾向にあるが、欧米諸国に比べ依然として高水準にある。少子・高齢化が進み若年労働力の不足が懸念されるわが国において、高齢者の就業意欲が強いことは望ましいことである。継続就業を希望する高齢者に就業機会を与えることは、わが国における重要な政策課題といえる。就業者の8割以上がサラリーマン(雇用者)であることを勘案すると、引き続き「雇用」という形で高齢者に就業の場を用意出来ることが望ましい。

  2. しかし、現在わが国は、かつてない厳しい就業環境下にあり、とくに中高齢者の環境は厳しい。今後の高齢者の就業環境を見通してみても、a.10年以内に団塊の世代が定年を迎えることにより、就業希望高齢者が急増し、企業の高齢者雇用吸収がより困難になる、b.製造業における海外生産シフトにより、国内工場労働者が過剰になる、c.産業構造の変化によりサービス産業の雇用吸収力は高まるとしても、高齢者についてはあまり期待できない、d.企業内でも高齢者に向いていると思われる職種の雇用吸収力が弱まっている、などの要因から更に一段と厳しくなるものとみられる。したがって今後、「雇用」だけでなく、それ以外の形態での高齢者の就業の場の確保についても検討していく必要があろう。

  3. 60歳代の高齢者の就業形態をみると、年齢が高くなるにしたがい、サラリーマンの割合が低下し、無就業者の割合が高まる。ただし、自営業主については、一定割合を維持し年齢による変化があまりみられない。これは、サラリーマンの場合、年齢が高まるにしたがい雇用機会が減少するが、自営業者は年齢にかかわらず体力・気力のある限り就業を続けることができるためである。高齢期の就業を考えるにあたり、自営業という働き方についても従来以上に重視していく必要があるだろう。

  4. しかしながら近年、わが国では自営業者数は減少傾向にある。これは、農林業や小規模小売業・製造業などの従事者が減少していることに加えて、自営業の場合、経営リスクがあり、生活の保障も十分でないことがある。わが国の起業環境はアメリカなどに比べ良好とは言い難いが、公的機関による無担保・無保証融資の取り扱いや、国の開業資金の助成金制度等が用意されており、それらを有効に活用すれば起業に伴うリスクはかなり軽減できる。

  5. 高齢者の多くは、雇用以上に体力・気力を必要とし、高いリスクを負うことから、あえて独立・開業に踏み切ろうとはしない。しかし、一部には、自分の裁量で仕事をしたい、働きに応じて高収入を得たい、年齢等の制約から雇用してくれる企業がない、などといった理由から定年やリストラによる離職を機に、思い切って起業したいと思う者もいる。当社の試算では起業意欲のる高齢者は全国で約150万人に達する。また、今後、年金財政の逼迫により年金のスリム化など高齢者の所得環境が一段と厳しくなることを踏まえると、働かざるをえない高齢者も増加する。こうした就業希望高齢者の増加に対し、雇用以外の就業の選択肢の一つとして独立・開業を政策的に支援することは重要な課題である。

  6. 近年、中高齢者の起業意欲は高まっているが、アイデアさえあれば誰もが事業化に繋げることができるわけではない。独立・開業に成功するには、魅力ある商品・サービスのほか、人・物・金など様々な経営資源を必要とし、起業家一人で全てを準備・調達するのは容易ではない。そこで行政が、様々な経営上のアドバイスを行ったり、経営資源調達への協力や、起業後の事業失敗リスクについて極力軽減できる仕組みを用意するなどの対応を図れば、より多くの中高齢者が起業にチャレンジできるようになる。
    中高齢者による独立・開業の成功事例をみると、単独ではなく賛同者を集め共同で事業を行い資金負担を軽減し、リスク分散や能力の相互補完などを図ったり、これまで培った得意技術・能力や人脈を生かした事業に取り組んでいるなど、いくつかの成功要因があることがわかる。独立・開業に成功するためには、起業家本人の努力はもとより、このような成功要因を制度的にビルトインしていくことも有効である。

  7. そこで、行政としては、起業に必要な要件や過去の事業化成功要因などを踏まえて、以下のような支援を行うことが望まれる。

    (1)起業(事業化)支援策として、
    a.ワンストップ型の相談センター(「独立・開業支援センター」)を各地に設置し、アイデアの創出から事業化への橋渡しを行う、
    b.「高年齢者共同就業機会創出助成金」制度の条件を緩和し、より利用しやすいものとする。

    (2)事業継続支援策として、
    a.これまで行政が内部で行ってきた各種業務や住民サービスを地域の小規模独立・開業事業者に極力業務委託する、
    b.地域の有資格の専門家をネットワーク化し、地域住民・企業の相談ニーズを集め仕事を斡旋する、
    c.独立・開業支援センターが地域の中高齢者と独立・開業企業との人材仲介をする、
    d.高齢起業者特有の問題として、健康問題(検診費用助成)や後継者問題(人材斡旋)にも対応する、
    e.より失業リスクの高い起業家のため、雇用保険への加入を許容する。
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