Business & Economic Review 2002年02月号
【FORECAST】
新年世界経済の展望-アメリカの牽引力低下と世界経済への影響
2002年01月25日 調査部
要約
- 2001年の世界経済を振り返ると、アメリカ経済がITブームの終焉を背景にリセッション入りし、10年に及ぶ長期の景気拡大に終止符が打たれた。1990年代を通じてアメリカ依存を強めてきた欧州、アジア諸国をはじめとする世界各国の景気も悪化に転じ、9月11日の同時多発テロの勃発がこの流れに拍車をかけたことで、世界同時不況の様相が強まった。
- 2002年の世界経済を展望すると、アメリカ経済は財政・金融両面からの政策効果の浸透によって春頃からマイナス成長を脱すると予想されるものの、ITブ-ム一巡の余波から資本ストック調整圧力が根強く残存するため、回復力は年率2~3%ペースの緩やかなものにとどまる公算が大きい。世界経済も全般的に低調な展開から脱しきれない見通しである。
- 中期的にみても、アメリカ経済の拡大ペースは90年代後半の年率4%台から3%程度へ下方シフトするとともに、株価の上昇ペースもモデレートなものにとどまるとみられる。これは、ITブームや財政黒字など、90年代の高成長・高株価を支えてきた要因が剥落するためである。もっとも、成長ペースの低下自体は、家計貯蓄率の低下、企業のバランス・シート悪化、経常収支赤字の膨張など、好調の陰で拡大した構造的不均衡が是正されるプロセスでもあり、アメリカ経済の持続的成長の確保にとっては望ましいと判断される。
- 高成長・高株価路線の終焉に伴い、内外投資家のアメリカに対する信認も低下に向かわざるを得ない。もっとも、世界経済を見渡しても、アメリカに取って代わり得る国が見当たらない状況下、同国の信認の低下は深刻なものにはならないとみられる。無論、リスク・シナリオとして、対テロ戦争の泥沼化や資本ストック調整の長期化などを契機に、アメリカへの信認が急激に低下する結果、アメリカから資金が大量に流出する可能性には留意しておく必要があろう。
- アメリカ経済の成長ペースの低下は、アメリカがこれまで担ってきた、世界輸出のアブソーバー機能や、国際的な金融仲介機能の低下を意味する。とはいえ、日本をはじめ国内に問題を抱える世界各国は、アメリカ依存体質から容易に脱却できないとみられる。このため、同時多発テロの悪影響とあいまって、世界貿易や国際資金フローは当面はスローダウンを余儀なくされよう。これはとりわけ、内需の基盤が脆弱なエマージング諸国にとって打撃となりかねない。
- 一方、今回の同時多発テロを契機に、世界経済は安全のための新たなコスト負担を余儀なくされた。こうしたコスト負担は、短期的にはともかく、WTO の新多角的通商交渉を通じて自由貿易を促進することで、中長期的には十分吸収可能であると判断される。

