Business & Economic Review 2003年01月号
【REPORT】
ブロードバンド市場における価格競争と企業行動
2002年12月25日 研究事業本部 青田良紀
要約
本稿は、進展するブロードバンド市場について、プレイヤー(企業)サイドの視点から考察したものである。また、ブロードバンドに関係する企業に対するインタビュー調査による分析も行っている。
- 本稿では「ブロードバンド」を「高速」かつ「常時接続」の通信環境と定義する。日本におけるブロードバンド市場は、NTTの回線開放を契機として形成されたといえるが、現在では、ソフトバンク系のヤフーの参入やボーダーフォンによる日本テレコムの買収などにより業界は再編されつつある。
- 日本のブロードバンドの利用価格は世界でも最も安価になっており、ソフトバンク系のYahoo!BBの低価格による市場参入を契機として、熾烈な価格競争が繰り広げられている。それは、Yahoo!BBの市場参入により、NTTの市場シェアが低下しているところに表れている。各企業が提供するブロードバンド・サービスは、差別化がほとんど行われていないことから、参入企業は他社よりも少しでも低い価格でサービスを提供出来れば、より多くの顧客を獲得することが可能になるため、ベルトラン型(価格競争型)の競争となっている。
- ブロードバンド市場における価格競争回避のために、企業は様々な戦略を取り始めている。その一つがコアコンピタンス戦略であり、他社とのアライアンスやアウトソーシングの活用によって、自らの強みを生かし、市場において優位なポジションを占めようとしている。関連企業のインタビュー調査結果でも、アライアンスやアウトソーシングの展開によるコアコンピタンス戦略の必要性を述べる企業が多くみられた。
- SCPパラダイム論に基づいて、現在のブロードバンド市場をみると、市場構造(Structure)では、インフラ面 で寡占への移行が進んだことになる。また、他分野からの参入企業を含めるとコンテスタブルマーケットの様相をみせている。市場行動(Conduct)については、ベルトラン型の競争が起こっており、強い「ネットワーク外部性(Network Externality)」から、企業戦略としての提携・合併などが進んでいる。しかし、価格のみを要素としたサービスの差別化には限界が見え始めており、広告やプロモーション活動の重要性が増している。市場成果(Performance)からみると、企業の差別化戦略が財・サービスの内容に拡大することで、消費者は、より良いサービスをより安く享受することが可能となっている。さらに、これまでの大企業における社内通信網(LAN)に類似したネットワーク環境が中小企業や家庭ユーザーまで整備されたことは、ブロードバンドによってもたらされた大きな市場成果である。

