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アジア・マンスリー 2013年11月号

【トピックス】
新しい工程間分業としてのタイプラスワン

2013年11月06日 大泉啓一郎


タイの生産拠点から労働集約的工程を周辺国に移転するビジネスモデルは、東南アジアにおける新し
い工程間分業といえる。その特徴と課題を考察する。

■国内外で進むフラグメンテーション
2000年以降、東アジアにおけるわが国製造業の直接投資では、工程間分業を目的とした投資が増えている。
工程間分業は、生産工程を国際間に配置するもので、フラグメンテーションと呼ばれる。
たとえば、ある製品が、原材料調達から最終製品まで国内にある一つの自社工場で生産されていたとしよう。この生産工程は、実際には、いくつかの生産ブロックに区分できる。
これら複数の生産ブロックは、近年の経済のグローバル化の進展、輸送コストの低下、IT技術の進化などにより、一つの工場に配置する必要がなくなり、それぞれを国内外の最適な条件を有する場所に配置することが求められるようになった。
このフラグメンテーションは、企業内から企業間へ移転されるもの(アウトソーシング)、国内から国外へ移転されるもの(国際分業)という2つの方向性を持って進んでいる。そして最終的には、企業間の工程分業も国境を越えて展開される。グローバルサプライチェーンは、フラグメンテーションにより国際間に広がった工程間分業のことである。
この国際間の企業間分業は、外国企業が担い手となる場合もあれば、日本企業が進出して担い手になる場合もある。複数の外国企業のブランド製品の生産の一部を請け負うOEM(original equipment manufacturer)による台湾企業は前者の代表例であり、タイに進出した日本企業が後者に該当する。

■タイの生産拠点の集積地化とタイプラスワン 
わが国のタイへの投資も工程間分業の形態が増えている。当初は企業内の生産ブロックをタイに移転する投資が多かったが、やがて国内の企業間分業の担い手もタイへ進出するようになった。
たとえば、自動車産業では、機械部品や内外装のメーカーなどの第1次サプライヤーだけでなく、プレス、金型に関連するメーカーなどの第2次サプライヤー、そして現在、製造機械のメーカーやそのメンテナンスサービス、流通・倉庫関連企業などの第3次サプライヤーの進出が増えている。かつて日本国内で行われていた工程間分業が、タイに集結し、それが同国の産業集積化を促した。
そして、最近、これらタイの集積地から周辺国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)へ工程間分業が拡大する動きが出始めている。これがタイプラスワンと呼ばれる新しい工程間分業である。
タイプラスワンの特徴は、カンボジアのプノンペンやラオスのビエンチャンなど、大都市だけでなく、国境に位置する中小都市も移転先の対象としていることである。その例として、プノンペンのコッコンやポイペト、ラオスのサバナケット、ミャンマーのミャワディーなどがあげられる。
これには、①国境までのタイ国内の道路が整備されていること、②国境を越えることで賃金格差のメリットが得られること、③周辺国政府が、国境地域を外国進出企業の誘致場所として捉えるようになったこと、④2015年にこれらの国とタイの間で関税が撤廃されること、などの環境変化が作用している。

■タイの拠点に求められる生産性向上策
東アジアにおいて工程間分業が広がるなかで、日本に残る生産拠点は研究開発、設計、試作品の製作などを担ってきた。これを考えると、タイプラスワンをより強力なビジネスモデルにするためには、タイに残された生産拠点の役割の見直しが重要である。
タイの生産拠点の競争力強化は、同国政府でも重要な国家戦略として認識されている。インラック政権は、研究開発(R&D)支出の促進、高等教育の充実などに注力している。日本政府も、泰日経済技術振興協会を通じて、タイへの最新技術と知識の移転・普及、人材育成を行ってきた。また、日本のものづくりに直結し、実務的かつ実践的な技術と知識を兼ね備えた学生を育成するため、2007年6月には泰日工業大学が設立された。さらに、近年、国際協力機構(JICA)は東南アジアの工学系大学とネットワークを形成し、民間企業との共同研究を促進するプロジェクトをスタートさせている。
企業レベルでは、①企業間、②企業内の両面での生産性向上策が求められる。
企業間では、多数の日本企業がタイの集積地に密集しているため、同地の日本企業間での意思疎通の促進を通じた協力体制の構築が可能である。タイは、日本人による日本語でのシナジー効果が最も期待できる国である。この点で、バンコク日本人商工会議所などが中心になって経営や技術関連の経験やノウハウを交流する場を設けることが有用となろう。また、日系企業に勤めるタイ人同士の交流の場の設定も、新しい経営・技術革新を生み出す契機になるかもしれない。
そして企業内では、R&Dと現場を結び付ける生産フロントを磨く必要があろう。そのためには、魅力的な研修制度や昇給・昇進制度の導入などが求められる。1,000人を超える従業員を有する生産拠点も少なくなく、タイ独自の人材育成が重要になる。
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