アジア・マンスリー 2013年3月号
【トピックス】
新たな日韓関係構築に向けて重要な年
2013年03月04日 向山英彦
李明博大統領の一連の言動により日韓関係が悪化したが、両国における新政権発足を契機に関係が正常化し、経済関係にも新たな動きが生じることが期待される。
■依然として重要な経済パートナー
韓国の対日輸出依存度が2000年の11.9%から2012年に7.1%(速報値)、対日輸入依存度が19.8%から12.4%へ低下した一方、同期間に対中輸出依存度は10.7%から24.5%、同輸入依存度は8.0%から15.6%へ上昇した。韓国が経済外交面で中国を重視するようになった背景にこうした変化があり、ある意味で当然といえる。
一方、貿易依存度の低下から韓国にとって日本が重要な存在ではなくなったと結論づけるならば、誤りである。
第1に、対日輸入依存度が依然として高いことである。輸入先の多角化や国産化(日本企業の現地生産を含む)の進展に伴い、対日輸入依存度は低下しているものの、日本企業は韓国企業の生産に欠かせない基幹部品や高品質素材、製造装置を供給している。
第2に、今述べたことと関連するが、韓国の産業高度化に日本からの投資が重要な役割を果たしていることである。韓国では対日貿易赤字の削減と産業高度化を図る目的で、日本からの輸入の多い部品・素材産業の強化を図ってきた。近年では亀尾や浦項などに「部品・素材専用工業団地」を相次いで設置し、日本からの投資を積極的に誘致してきた。
納入先である韓国企業の生産拡大に加え、低い生産コスト(低い法人実効税率、安い電力料金などを含む)やFTA発効などに伴う輸出生産拠点としての魅力向上などにより、日本からの投資が増加傾向にある。韓国知識経済部の統計(申告ベース)では、2012年は前年比98.4%増となった。日本は全体の27.9%を占め、最大の投資国である。投資分野も部品・素材分野が多い 。
第3に、趨勢的に低下してきた対日輸出依存度が2010年をボトムに上昇に転じたことである。対日輸出依存度の上昇は東日本大震災後の一時的な現象ではない。自動車部品輸出の増加が示すように、両国を跨ぐ形でサプライチェーンが形成され始めたことが影響している。
他方、対中依存度は中国以外の新興国の台頭に伴い、輸入に続き輸出でも今後徐々に低下していく可能性が高い。実際、中国における労働力不足や賃金の上昇などを背景に、中国以外の生産比率を高める動きがある。サムスン電子では、ベトナムが携帯電話の主力生産拠点になっている。マクロ的にも、韓国経済が中国の経済動向に大きく左右されるようになったため、「過度な」対中依存度を是正する力が働くだろう。
2012年10月末に日本と韓国が日韓通貨スワップ協定の拡大措置を終了したことについて、一部で韓国が日本との関係を見直し、中国との関係を強めたという解釈がなされた。はたしてそうなのだろうか。日本政府が「制裁措置」としてスワップ協定の拡大を延長しない可能性を示唆したため、その観点からとられがちであるが、両国がお互いの面子を保ちつつ、ウォン急落のリスクが小さくなったことを受けて 、「経済問題として処理する」という「暗黙の協調」があったと考えるべきである。
そのことを裏づけるかのように、同年11月に、延期されていた財務大臣会合が再開された。「両大臣は、2012年10月31日に予定通り二国間通貨スワップの時限的な増額を終了した後も、依然として両国の金融市場が安定し、マクロ経済の状況も健全であるとの認識で一致した。両大臣は、これまでの時限的な措置がグローバルな金融不安の両国経済への波及を抑え、また、韓国の為替市場だけでなく地域の金融市場の安定確保にも大きく貢献してきたと認識している。両大臣はまた、両国及び世界経済の状況を注意深くモニターし、必要が生じた場合には引き続き適切に協力することに合意した」(財務省ホームページ)
■新たな動きが期待される日韓関係
2月25日、朴槿恵大統領が誕生した。領土問題ならびに歴史認識などの懸案事項があるものの、日本と韓国との政府間関係は比較的早期に正常化されるものと予想される。
日本に関しては、安倍政権が重視する日米同盟の相手である米国のオバマ大統領が、同盟国である日韓の関係を憂慮していること、日本政府が対中外交を進める上で日米韓の連携が不可欠であることを踏まえると、韓国との関係正常化を急ぐ可能性が高い。
他方、韓国に関しては、3回目の核実験を行った北朝鮮に対する国際社会の制裁を強化する(最終的に核放棄を促す)上で、韓国政府は中国にこれまで以上の協力を求めると同時に、米国、日本などとの連携を深めていくであろう。また、①東アジア地域で軍事的、経済的に影響力を増す中国は韓国にとっても脅威であること(最近では韓国領海での中国漁船の違法操業が問題に)、②アジアの経済統合を進める上で、民主主義と市場経済原理の価値を共有する国との協調が重要であることを考えると、日本との関係を強める政治力学が働く可能性は十分にある。
アジアの経済統合に向けた取り組みが進むなかで、韓国と中国のFTA交渉が2012年5月に開始され、3カ国間のFTA交渉が2013年より開始する予定である。日本と韓国の交渉は2003年12月に開始されたが、翌年11月の交渉を最後に中断した。日本政府が農水産物市場の開放を拒んだことが理由の一つである。
日本にとって、日韓EPAはTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)よりも進めやすい。その理由は、①韓国がこれまで締結してきたFTAをみると、すべてにおいてコメが譲許対象から除外されていること、②関税撤廃時期について、チリとの間でトマト、キュウリ、豚肉などが10年以内、米国との間で牛肉が15年以内、EUとの間で豚肉が10年以内と、関税撤廃までの期間が長期に設定されたことから判断して、農業分野の自由化が「無理のない範囲」で進められるからである。韓国側にも、交渉再開を受け入れる環境が整い始めた。10年前は、日本からの工業製品輸入に対する警戒感が強かったが、現在はそれほどでもないことである。この10年間に家電製品のポジションは逆転しており、自動車の一部は日本からの輸出が米国(日系企業の米国工場)からの輸出に代替されている。対日貿易赤字も総じて縮小傾向にある。これらの点を踏まえると、日本政府が韓国に対して政府間交渉再開に向けての積極的な提案をすることが賢明であろう。
以上のように、2013年は日韓経済関係に新たな動きが期待される年といえる。