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アジア・マンスリー 2010年8月号

【トピックス】
拡大する中国の自動車市場

2010年08月02日 関辰一


中国の自動車市場は所得水準の上昇や政策効果などを背景に、2009年も大幅に拡大した。乗用車市場では、外資系ブランドが市場の牽引役であった。

■拡大する中国の自動車市場
中国経済は金融危機以降、世界に先駆けて回復した。業種別にみると、自動車産業の拡大がとりわけ顕著であった。
中国汽車工業協会によると、2009年の自動車販売台数(メーカー出荷、以下同じ)は1,365万台と2008年に比べて426万台増加した。このうち、乗用車(除くSUV、MPV、クロスオーバー型、以下同じ)は746万台と同243万台増えた。
自動車販売が急増した要因としては以下の4点が指摘できる。第1は、所得水準の上昇である。都市部の1人あたり可処分所得は2009年に前年比8.8%増加し、2003年からの6年間で所得倍増を実現した。このような大幅な所得水準の上昇により、消費者の購買力が高まった。加えて、今後も所得が増加するとの期待感により、一部の消費者は収入水準からすると割高と思えるほどの高価格商品でさえ購入したともいえよう。
都市部家計の基礎的環境をみると、総所得から税金や社会保障費用を差し引いた可処分所得は、2009年時点で1人あたり1万7,175元であり、1世帯あたり2.89人であったため、世帯可処分所得は4万9,635元(68万円)となる。
国家発展改革委員会によると、都市部における乗用車価格は2009年に平均13万2,008元(181万円)であった。これは、平均的な世帯可処分所得の2.7年分に相当する。所得に対して自動車価格が高いため、自動車保有率は10.9%と依然として低水準である。
第2は、自動車価格の低下である。2009年の都市部における乗用車価格は前年に比べて3,984元低下した。各メーカーが、生産コスト削減などにより、販売価格をより多くの消費者に受け入れられる水準まで引き下げた結果である。
第3は、政策効果である。政府は自動車市場を活性化するために、2009年1月14日に「自動車産業調整振興計画」を公表した。1台の自動車には3~4万個の部品が必要とされるように自動車生産・販売は多くの産業に波及効果をもたらすため、本「計画」は景気刺激策として効果が大きい。本計画に沿って1月以降、①小型車の減税(税率10%を5%に)、②農村部での購入支援策、③都市部での自動車買い替え支援策が実行され、これらの政策が個人の自動車需要に対する呼び水となったといえる。
第4は、2008年の買い控えによる反動である。中国では、所得増加と自動車価格の低下により、毎年安定的に自動車市場が拡大してきた。2000年から2007年にかけて自動車販売台数の伸び率は13~36%の範囲内で推移してきた。2008年もそれまでの拡大ペースが続いていれば、年間販売台数が1,000万台を超えるとの予想もあったが、同年の伸び率は7%にとどまった。世界的な金融危機を背景に、自動車を購入しようと考えていた消費者の一部が買い控えたことが原因である。これらの消費者が2009年入り後の景気回復を確認して、購入に踏み切ったものと考えられる。

■乗用車市場の大半を占める外資系ブランド
それでは、拡大する中国自動車市場において、どのような車が消費者に選好されているのだろうか。乗用車市場では、2003年から2008年まで外資系のシェアが概ね70%台半ばで推移した。
外資系ブランドが7割超のシェアを得ているのは、ボリュームの大きい中高価格帯で競争力があるためである。高所得層の高い購買力により、10万元超の中高価格帯のボリュームが大きい。高所得層にとって、上海汽車の栄威550(11~19万元)など中高価格帯の中国独自ブランドも選択肢としてあるものの、同じ価格であれば、品質などを考慮して外資系ブランドを選ぶ傾向がある。
所得階層において最上位10%の世帯における世帯可処分所得は10万9,471元であった(2008年)。この層にとって、平均13万元の乗用車は世帯可処分所得の1.2年分にあたり、比較的手が届きやすい。このため、自動車保有比率は33.0%に達する(中位20%層は同5.7%)。
2009年は外資系のシェアが、70.3%と前年比3.7ポイント低下した 。この一因に、小型車減税を中心とした政策効果がある。その結果、1600cc以下の小型車が8割を占める独自ブランドの伸び率が、前年比69.5%と外資系ブランドの同40.6%を上回った。
外資系ブランドの内訳をみると、日系が乗用車販売全体の24.9%と最もシェアが高かった。アコード(18~34万元、以下同単位)、新型カローラ(9~18)、カムリ(19~28)の3ブランドがトップ10入りした。これに、ジェッタ(6~10)、サンタナ(6~8)に代表されるドイツ系が同19.3%、ビュイック・エクセル(10~12)を擁する米国系が同13.0%と2ケタのシェアを得た。さらに、エラントラ悦動(11~13)、エラントラ(9~13)を中心とした韓国系が同9.6%、プジョー307(10~17)などフランス系が同3.6%と続いた。販売上位10ブランドのうち、6ブランドは最上位10%層の1~3年分の世帯所得に相当する10~30万元台の外資系ブランドであった。
今後を展望すると、所得水準の上昇により高所得層の継続的な購買力の向上が期待できるため、外資系ブランドが乗用車市場を牽引する構図は大きくは変わらないと見込まれる。
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