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アジア・マンスリー 2026年9月号

力強さを欠く中国の消費振興策

2026年08月27日 古宮大夢


中国政府は消費特化型の5カ年計画を初めて策定した。もっとも、消費者の節約志向の根源にある不動産不況や若年層を中心とした雇用不安の早期回復は見込みにくく、目標達成は難航すると予想される。

■サービス消費を重点項目の筆頭に位置づけ
中国政府は7月、「消費拡大に関する第15次5カ年計画」を策定した。消費に特化した5カ年計画を打ち出すのは、今回が初めてである。計画の全体目標は、広範なサービス消費を含め、経済全体に占める家計消費の比重を拡大することである。目的は、中国経済の成長モデルの転換である。これまで中国経済は投資に重点を置いた成長をしてきたが、GDPに占める家計消費の割合は4割弱にとどまり、欧州主要国や日本の5~6割、米国の7割弱と比べて小さい。一方、不動産不況や過剰生産能力の問題が深刻化するなか、従来の投資偏重型の成長は限界を迎えており、消費主導の成長モデルの実現が急務となっている。

本計画における具体的な数値目標としては、社会消費品小売総額(商品小売+飲食サービス)を2030年までに約60兆元に引き上げることが設定された。目標達成には、5年間の平均で+3.7%の消費拡大が必要となる。なお、前段で述べた全体目標と異なり、数値目標には飲食サービス以外のサービス消費は含まれていない。

消費拡大に向けて取り組みを推進する重点項目として、①サービス消費の質的向上、②財消費の拡大と高度化、③新たな消費の形態・モデル・シーンの育成、④消費能力の向上、⑤消費環境の大幅改善、⑥消費促進の制度やメカニズムの整備、の六つが掲げられた。筆頭に位置づけられているサービス消費については、銀髪経済(シルバーエコノミー)の拡大や保育サービスの利用促進、文化・観光消費の発展、健康消費やスポーツ消費の奨励、教育・研修サービスの向上といった政策方針が挙げられている。7月末に開催された共産党中央政治局会議においても、サービス消費の潜在力を活用することの必要性が強調されており、中国政府の消費振興策の重点がモノ消費からコト消費に変化している様子がうかがえる。

■節約志向が浸透しているサービス消費
政府は計画策定にあわせ、幅広いサービス消費の動向を捉えた新指標である「社会消費商品・サービス小売総額」の公表を6月から開始した。新指標には、旧来の小売売上高(社会消費品小売総額)で捕捉されていた飲食サービスに加え、通信・情報サービス、観光・文化、スポーツ・レジャーなど、幅広いサービス消費が含まれている。新旧指標の最近の動きを比べると、旧指標は2024年以降伸び率が継続的に低下している一方で、新指標は底堅い推移となっている。

このように、サービス消費全体としては、財消費に比べて堅調な伸びを示しているものの、消費全体のけん引役にはなりがたい状況である。サービス消費の内訳をみると、新旧指標の乖離が拡大した2025年以降の景気減速局面において、節約志向の高まりから支出内容に濃淡が生じている。医療・保健や交通・通信、教育などの削減が困難な支出項目は可処分所得の伸びを超えて増加する傾向が見られる一方、飲食や家事代行など家庭内で代替可能なサービスは支出が停滞している。また、賃料などの住居費も、不動産不況を背景に低迷している。さらに、政府が消費拡大の柱に据えている観光消費も、経済的な理由から「安近短(費用が安く、距離が近く、日程が短い)」な旅行が重視されており、海外ではなく国内旅行に人気が集まっているほか、国内旅行者の1人当たり支出額も減少している。

■消費低迷構造の打開策を欠き、目標達成は困難
そのほかの重点項目では、③新たな消費の形態・モデル・シーンの育成において、人工知能と消費を融合させたデジタル消費の発展や、環境に配慮したグリーン消費の促進、地域の実情に合わせた「首発経済」などが挙げられ、一定の需要創出は見込まれる。首発経済とは、企業が新製品の発表、新業態や新技術・新サービスの導入、および海外・国内ブランドの1号店(首店)のオープンなど、すべての「初(はじめて)」をキーワードにした経済活動の総称である。

もっとも、消費の本格回復は期待薄である。消費者の節約志向の根源にあるのは、不動産不況による逆資産効果と若年層を中心とする軟調な雇用環境である。各都市で住宅購入要件の緩和などが実施されているものの、購入層の減少といった構造的な要因が住宅販売の重石になっている。新築住宅価格に加え、市場の実勢を反映しやすい中古住宅価格も下落が続いているほか、在庫の回転期間も長期化していると見込まれ、住宅市場の本格回復にはなお数年を要する見通しである。雇用環境についても、本年入り後の年齢階級別の失業率をみると、16~24歳と30~59歳が2025年以前の高い水準で推移しているほか、25~29歳は昨年を上回って悪化しており、改善の兆しが見られない。不動産不況を受けて2022年以降「悲観」が続いている消費者マインドは、本年入り後に一段と悪化している。

政府は5カ年計画のなかで、質の高い十分な雇用環境や手ごろな価格の住宅供給の最適化、不動産市場の健全化を含めた複数の経路による財産所得の増加などに言及しているものの、具体的な方針は示していない。また、人工知能の発展が労働代替につながり、家計の将来不安が一段と拡大して、逆説的に消費者マインドを悪化させる恐れもある。5カ年計画では消費低迷の根本原因へのアプローチが不十分であるため、消費主導型経済への転換は難航が予想される。


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