アジア・マンスリー 2026年5月号
製造強国を目指す中国の新5カ年計画
2026年04月28日 佐野淳也
今年からスタートする中国の新5カ年計画は、製造強国を最優先目標と位置付けている。製造業の強化が進む半面、供給過剰や需要不足がかえって拡大する可能性も懸念される。
■新たな5カ年計画が本格始動
中国では、3月の全人代(国会)で新しい第15次5カ年計画(2026~30年)が採択され、本格的に始動した。5カ年計画は、経済・社会の運営方針や期間中に達成すべき目標、主要な取り組みなどが包括的に盛り込まれる、中国にとって最も重要な中期計画である。この5カ年計画に沿って、個別分野の5カ年計画や各年の経済・社会発展計画が策定・実施される。以下では、今般の5カ年計画から、中国政府がどのような国家運営を行おうとしているのかを検証する。
■経済成長率目標は示されず
今回の5カ年計画は、20項目の主要数値目標を五つのカテゴリーに分けて掲載している。ここで注目されるのは、①経済成長率目標を数値で示さなかったこと、②国民生活の向上を重視していること、③R&D投資の推進を継続していること、の三点である。
今後5年間の成長率目標を数値で示さなかったのは、内外経済の不確実性が高まるなかで、経済情勢の変化などに応じて毎年目標を設定し、5年間を通して「合理的な成長ペースを維持する」ことが狙いとみられる。中期のマクロ経済運営に柔軟性を持たせることを優先したといえる。
国民生活の向上を重視する具体例としては、国民1人当たり可処分所得の伸び率と都市部の失業率に関する目標が挙げられる。可処分所得をGDP成長率と同ペースで増やすという目標は、2035年の1人当たりGDPを2020年比2倍にし、中国を「中位相当の高所得国」にさせたい政府からすれば、最低限達成したい水準と考えられる。都市部調査失業率を5.5%以下に抑制する目標は、2025年の実績値である5.2%を上回る水準だが、雇用情勢が厳しさを増していることや、政府は労働報酬の引き上げも進める方針であることを踏まえると、むしろ厳しい目標設定とみなすべきであろう。
R&D投資を年平均7.0%以上増加させる目標については、国内のあらゆる産業をイノベーション主導で拡大・強化したい政府の意向を強く表している。さらに政府は、応用研究一辺倒ではなく、成果に不確実性を伴うものの、根本的な技術革新につながる基礎研究にも積極的に投資を振り向ける方針も打ち出している。
■製造強国の実現を最優先に
経済政策運営では、二つの動きが注目される。第1に、製造強国の実現を最優先目標と位置付けたことである。中国製造業は世界経済におけるプレゼンスがすでに高いが、政府は、強大な製造業が経済をはじめとする総合国力の基盤であるとの認識のもと、さらなる競争力強化に取り組もうとしている。
実際、今回の5カ年計画には約100項目の重点プロジェクトがあるが、AIやハイエンド新素材など「新質生産力の発展」関連が28件と最も多い。新質生産力とは、技術革新を通じて、先端分野を中心に製造業のレベルアップを図る取り組みを指す。そのため政府は、集積回路や工作機械といった分野のコア技術でのブレークスルーにより、海外に頼らず内製化を加速する「自立自強」を打ち出した。将来を見据えた新興産業(ロボット、バイオ医薬など)・未来産業(量子技術、6Gなど)の育成や人材育成も、製造強国の実現に向けた取り組みの一環といえる。
第2に、需給両面にわたる経済構造の転換である。需要面では、内需(消費、投資)の拡大と、対外貿易・投資の質の向上を進める方針である。とくに、GDPに占める家計消費の割合が他の主要国に比べて小さいことから、その引き上げを明言した。これまで、短期的な消費拡大策としては耐久消費財の購入補助金などが活用されてきたが、今回の5カ年計画では低迷する消費者マインドの喚起に注力する姿勢が強調された。
供給面では主に、反内巻政策(企業の過当競争の防止や地方政府による過度な企業優遇策の抑制)、金融面からの生産性向上のための企業支援、そして公平な分配を通じて、全要素生産性を高める方針を明確に打ち出した。
■今後の展開と課題
今後、新たな5カ年計画が実行されるなかで、一部のハイテク製造業を中心に、供給面での競争力強化が一段と進むと見込まれる。その一方、消費喚起に向けた具体策に乏しいため、需要不足と供給過剰が深刻化し、デフレ脱却が遠のく可能性には注意が必要である。
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